命ーミコトー
4
「はあ…。」
私は大きなため息をつき、周りから見たらさぞ迷惑なほど落ち込んでいた。
学校カバンと、もう一つ大きなカバンを持って、登校してきた。
今日は火曜日。あの事件の翌日である。
「おい、榊。イライラするくらい落ち込んでるな。」
バシン、と勢いよく蓮見に背中を叩かれる。いつもはそれに食いついて、言い返したり、反撃したりするのだが、今はその気力さえない。
これは、本当に何かあったな、と蓮見も感じたようだ。
「分かった。補習終わったら話聞いてやるから、それまで今日も頑張れよ。」
「……はい。」
そんな状態で補習に集中できるわけもなく、その日何度も藤家に怒られた。
だけど、その最中も上の空で、私はこれからどうすればいいのだろう、と考えめぐらせながら落ち込み続けていた。
その日久しぶりに補習終了はビリであった。
「終わった…。」
やっとプリントが終わり、机に突っ伏す。
「ほら、榊。終わったなら先生に提出しなきゃ。」
「んー。」
「ちっ。」
藤家は私が使い物にならないと分かったのか、舌打ちをして、ブツブツ言いながら、代わりにプリントを蓮見のところへ提出しにいってくれた。
何だかんだいって、藤家本当に面倒見いいよな…。そうは見えないけど…。
そんなことをボーっとしながら考えていた。すると、ポカリと頭を叩かれる。
顔を上げると、蓮見が腕組して机の前に立っていた。
「ったく、本当重症だな。とりあえず、資料室で話し聞くから付いて来い。」
「はい。」
私はノロノロと席から立ち、カバンを二つ持って蓮見の後を付いていく。
「藤家、お前は何でついて来るんだ?」
見ると、藤家もカバンを持って私の後ろについてきている。
「何か、俺がいて悪いことでも?」
「……いや。」
しょうがないので、三人で資料室に入っていった。
「んで、何があった?」
蓮見は部屋にカギを閉めてから、私と藤家が座っているイスの向かいのイスに座った。
「いや、あのですね、実はですね。」
私は昨夜の出来事を二人に話し始めた。
昨日、家に帰ると、玄関に父親が仁王立ちで立っていた。般若のような顔をして。
もともとごつい顔立ちなので、あまりの形相に、わが父ながら悲鳴を上げそうになってしまった。
『お、お父さん?どうしたの…。』
『おい命。今日の昼の出来事は何だ?』
『は、はい?』
『今日の昼前ぐらいに、あの場所から封印されたはずの者が出て行ったように感じたが?
すぐに行ってみると、入り口は開いているし。慌てて母さんに閉めてもらったから大丈夫だったものを。
だが、重要な一匹が出て行ってしまったように見えたが?』
『そ、それは…』
私は正直に父親に話した。
『なるほど、そうだったのか…』
思ったよりも冷静に落ち着いて話を聞いていてくれたので、大丈夫かな、と思ったのだが。わが父はそんなに甘くなかった。
『馬鹿やろう!お前は榊家の恥だ!恥!なんて事を…ご先祖様に申し訳がたたん…。どう詫びればいいのだろうか。』
『お、お父さん、私…』
『もうお前は勘当だ!封印するまで帰ってくるな!』
「ということで、現在家を追い出された状態でして…。」
蓮見も藤家も口をポカンと開けている。
そりゃそうだろう。
蓮見が私の持っている大きなカバンを指さして言った。
「じゃあ、その荷物は…。」
「今朝捨てられる前に急いで片付けた、自分の身の回りのものでございます。」
私はぎゅっと荷物を抱きしめた。
あのままだと、私の荷物全て家の外に出されそうな勢いだったのだ。
だから、必要なものは慌ててまとめてきた。こっそり朝抜け出すとき母親がこう言ったのだ。
『お父さん、あのままだと私の言うことも聞かないから。2、3日したら頭も冷えると思うから、その間お友達のところに避難しておきなさい。
こっちで説得するから。このままだと、あの人何をしでかすか分からないからね。大丈夫そうになったら、私が命に連絡を入れるから。』
なので、私は母から連絡が来るまで、自分の心身の安全のためにも、家には帰れないのだ。
「で、榊これからどうするの?」
藤家が心配そうに言ってきた。
「ど、どうしよう?」
「どうしようって、俺に聞かれても…。」
「お前、安池か松下の家はどうだ?」
そうだ。家に置いてくれるほど仲のいいのはこの二人しかいない。
中学のときは、まだ小学生のときのトラウマがあったので、なかなかそこまで仲の良い友達を作ることができなかったのだ。
「そうだ!ミカとユリ!」
希望の兆しが見えた。だが、すぐにその光は消えた。
「ダメだ。ちょうど今日から彼氏と旅行行くって…。あの二人金持ちだからな、結構遠くに行くんだろうな。2、3日行くとか言っていたような…。」
私たち三人は顔を見合わせ、同時にため息をついた。
「もうダメだ…ホームレスになるしか…。それで、本でもだそうかな。『ホームレス女子高生』とか。」
そんな風に現実逃避し始めた私を見かねて、蓮見が言った。
「しょうがない、しばらく家に置いてやろうか。」
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