命ーミコトー
7
私たちは蓮見の家のはなれに来ていた。ここに来るのは少し久しぶりだったが、随分今までと違う気配を感じた。
私が眉をひそめながらきょろきょろと辺りを見回していると、蓮見が後ろを振り向いた。
「榊、気づいたか?」
「う、うん。どうしたの、この気は。」
はなれ、いや、邸全体が不穏な空気で満たされていた。
少し覚えのある気配だ。重苦しく、何だか頭が痛くなりそうだ。
しかし、蓮見の部屋に入るとそれはピタリと止んだ。
「3日前からかな、こんな風になったのは。
どうにかこの部屋だけは死守しているんだが。
ちょうど3日前は俺は家を留守にしていたんだが、その日どうやら来客があったらしいんだ。」
「来客?」
「ああ、その客が来てから親父達の様子が少し変わったって使用人に聞いてな。まあ、とにかく座れ。」
蓮見はベッドの上へと腰を下ろし、私はその向かいのテーブルのある所に頬杖をつき座った。
「その来客って言うのが、着物を着た長い髪の女だったんだそうだが…みんなその女を見るのははじめてだったらしい。
なのに、あの疑り深い両親がそいつを家に上げて、更に私室にまで入れたんだ。」
私はそこでピンと来た。もしかして…。
「蓮見、私多分その人が誰か分かった。」
「本当か?」
蓮見が身を乗り出してくる。私は小さく頷いた。
「多分、その女性の名前は瑠璃。
さっきその人の気配をほんの少しだけど感じたの。ミコトの巫女の友人の妖狐。」
「ミコトの巫女の友達がどうしてこんなことを…?しかも相手は妖怪なのか?」
私はその人物があの日、海で出会った少女だということ。
そして夢の中で見たミコトの巫女と瑠璃さんの記憶の事を話した。
「その瑠璃って妖狐はミコトの巫女の父親に家族、一族全員を滅ぼされて、その恨みでそんなことをしてるって事か?」
「うん…多分そうだとは思うんだけど…」
「けど?」
「分からないけど…でも、何だかそれだけじゃない気がするんだよね。」
何故だかは分からないけれど、もっと更に恨みが入り組んでいるように感じるのは、私の中にいるミコトの巫女の影響からなのだろうか。
「うーん…そうか…。陽なら何か知ってるかな?」
「そうだよね!陽さん、今呼び出せる?」
「どうかな…。前まではよく話しかけたりしてきたのに、何だか最近安定しないというか。」
蓮見は目を閉じて陽さんに呼びかけてみたが、どうやら反応は無かったらしく、静かに首を振った。
「そっか。じゃあ、しょうがないね。今度会ったときに聞かなきゃ。
それより、まさか蓮見のご両親にまで…。
多分、瑠璃さんは二人に洗脳をかけたんだと思う。」
「洗脳?」
「そういう力を持っているの。妖狐は本当に妖怪の中でも優れた力を持っていて、しかも彼女は九尾の狐。
私が思うに、洗脳する力や好きなものに化けたりする力、それ以外にも色々な力をあの人は使い分けることが出来る。」
そこまで言って、私は俯いた。蓮見のご両親にまで迷惑をかけてしまうなんて。全く関係が無いのに…。
そんな私の考えていることを察したのか、蓮見は少し眉を下げて笑った。大きな手が私の頭の上に置かれる。
「大丈夫だ。俺の両親の事だったら。」
「でも…。早くしなきゃ…。」
「何もお前一人で背負わなくてもいいんだ。俺も藤家も、陽も光さんだっているんだから。な?」
私が俯いていた顔をあげると、蓮見は太陽のような明るい笑顔で私の顔を見ていた。
両親が巻き込まれ始めて自分だって色々とあるはずなのに…。
そんな蓮見を見て、私もちゃんとしなくちゃな、と思った。
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