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命ーミコトー
8
「こ、ここはどこでしょうか…。」

周りを見ても、先ほどまでの砂浜はなく、岩、岩、岩。しかも人の姿もないし。

「迷子になった…。」

先ほどまでみんなと一緒に遊んでいたのだが、突然トイレに行きたくなったので、三人から離れたのだ。
とりあえず一言言ってはきたのだけど。
その時、藤家が「ついていこうか?一人じゃ危ないし。」とか言っていたが、さすがに男の子にトイレに付いてきてもらうとかは恥ずかしいので断ったのだ。
美嘉に「迷子になるんじゃないよ。」と言われて、笑っていたが。今、その通りになっている。


「あのパラソルもあるし、それに同じ道を歩いていたはずなんだけどな。」


私はとりあえず岩に登ってみた。すると、そこから砂浜が見えた。
どうやら反対側に行ってしまったみたいだ。でも、あんなに距離が開くほど歩いただろうか。


「ひっく、ひっく…。」
「?」


どこからともなく泣き声が聞こえてきた。その泣き声の方向に歩いていってみると、岩陰で7歳くらいの女の子が泣いていた。


「どうしたの?」


私が声をかけると、女の子が顔を上げた。目には涙をいっぱいにためている。
小さいながら、恐ろしく顔が整っていて、成長すれば相当の美女になるだろう、と思った。


「あのね、お父さんも、お母さんもいなくなちゃったの。」


ああ、この子も迷子なのだ。私は女の子の目の前にしゃがんだ。


「お姉ちゃんもね、お友達とはぐれちゃったの。」
「お姉ちゃんも、一緒?」


そう首をかしげて言う姿は本当に可愛らしく、ついつい頬が緩んでしまった。

「お姉ちゃん、優しいんだね。」


女の子はスクッと立ち上がった。そして私に手を伸ばしてくる。

「お姉ちゃん、お名前は?」
「命だよ。」
「みことお姉ちゃん?」
「そう、あなたは?」


私は差し出された手を握り、立ち上がった。


「私、瑠璃。」
「瑠璃ちゃん?」


瑠璃ちゃんはにっこり笑った。

瑠璃ちゃんは私の手をひきながら歩き始めた。先ほどまで泣いていた女の子とは思えないほど、しっかしりしていて感心する。
でも、この子はどこに向かっているんだろうか。


「瑠璃ちゃん、どこに行くの?」
「もうちょっと、もうすぐだよ。」


花のように微笑む瑠璃ちゃん。秘密の場所に連れて行ってあげると言って、向かっているのだが。


「お父さん、お母さん探さなくていいの?」
「…お父さんもお母さんも見つからないよ。」


ふと、瑠璃ちゃんが立ち止まった。瑠璃ちゃんがスッと指差す。
指された方向を見てみると、そこには私が住んでいる山の隣にある空狐山があった。


「あそこにね、みんないたの。」


瑠璃ちゃんは振り返った。だけど、その表情は暗く重たい。とても7歳の少女の顔ではなかった。


「瑠璃…ちゃん?」
「でもね、殺されちゃった。みーんな。あの怖いおじさんに。」


ニタリと瑠璃ちゃんは笑う。目はつり上がり、先ほどまでのものではない。
それに、この感じ。覚えがあった。
私は後ずさりしようとするが、ガッと瑠璃ちゃんは強い力で私の手首を掴んだ。ギリギリ締め上げてくる。


「…っ」
「どうして逃げるの?みことおねえちゃん。」


私の手首を掴んでいないもう片方の手が、私へと伸びてくる。
この少女から発せられる殺気に背筋は冷たくなり、足がガタガタ震える。


「榊!!」


その時、後ろから藤家の声がした。私が藤家のほうへ振り向いた瞬間、瑠璃ちゃんはグッと手首を引っ張り、恐ろしい力で私を放り投げた。
少女の力ではない、人間の力でもない。海へ落ちる瞬間、私の目に飛び込んできたのは、長い髪に黒い尻尾が九つある女の人だった。
憎しみに満ちた目が私をじっと睨んでいた。



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