命ーミコトー 7 その頃の私は蓮見と藤家がどうしているかなんて全く知る由もなく、有里を問い詰めていた。 「有里さん…これはどういうことでしょうか?」 えー、何のことー?」 私は持っている水着を有里の目の前に突きつけた。 「これよ!これ!」 実は、山育ちの私は海に行くなんて本当に小さいときぶりで、学校のプールで使うスクール水着以外に水着を持っていなかったのだ。 しかも翌日要り様で、買う時間もお金もなく、ちょうど藤家と蓮見も参加という連絡をした時に有里に相談していたのだ。 そうしたところ、有里が「じゃあ、私が何か貸してあげるよ。」と言ったのだ。 私は少々嫌な予感をしつつも、「でも、地味なやつにしてね。」と頼んでおいたのだが…。 「何で、何で真っ赤なビギニなのよ!?初心者なのよ、私は!」 「いやいや、水着に初心者も何もあるのか?」 と、美嘉は冷静につっこんできた。 「えー、十分地味じゃない。すんごく。」 「でも!」 私は有里を見て、その水着姿に黙り込んだ。ピンクのフリフリで、相当素材がいいのだろう、光沢があり、しかも何かキラキラしている。 うん、非常に派手である。 「有里は普通と基準が違うんだから、有里に任せた時点でそれは諦めなさい。」 美嘉にポン、と肩を叩かれ、それから美嘉に水着を取られる。 「でも、別にこれは可愛いんじゃない?真ん中にリボンあって可愛いし、水着だからこれくらいで。」 「でしょう?ほらね!私だってちゃんと命のこと分かってるんだから。命に似合うなと思って選んだんだから。」 「本当に?」 「「本当、本当。」」 二人にそう断言されて私はまじまじともう一度水着を見た。 確かにそういわれれば、思ったほど派手でもないかもしれない。 今までスクール水着だった私の基準もおかしいのかもしれないし、私は結局ありがたくそれを着させてもらうことにした。 私は胸をドキドキさせながら三人で蓮見と藤家の待っている場所へと向かった。 やはりあのド派手なパラソルのおかげで、すぐに二人は見つかった。 まだ、少し恥ずかしいが、二人に大丈夫と保障されたので、これなら見られても大丈夫だ。 ん?これなら…? 誰に私は見てもらっても大丈夫だと思ったのだろう。 「蓮見!藤家くん!お待たせー!」 「本当だ。随分待ったぞ。」 蓮見が腕組みしながら呆れ顔で待っていた。藤家はパラソルの下の日陰に座っている。 二人の姿を見て、少し心臓がはねたのを感じた。 「榊…。」 藤家は私の姿を見ると、嬉しそうに微笑み立ち上がった。 その姿を見て、美嘉と有里は「ははーん」と笑っている。 「何よ?」 私は二人をジロリと睨んだ。二人ともそ知らぬ顔だ。藤家は私のほうへと歩いてきた。 「ごめんね、藤家。待たせちゃって。」 「いいよ。榊、やっぱり赤が似合うね。」 神々しい笑顔つきでそんなことを言われ、私はなんともいえない歯がゆい気持ちになった。 「そんなこと…。藤家だって…。」 そこで私は藤家の姿をマジマジと見た。今までいくら想像してみても想像できなかった藤家の姿が目の前にある。 やっぱり肌はやけてなくて綺麗だけど、ちゃんとしまっていてひ弱な感じはしないのだな、とか思いながらじっと見てしまう。 それに、髪を一つに結んでいて、いつもよりも美しいお顔がハッキリと見えるのだ。 「あんまり見ないでよ、エッチ。」 藤家に真顔でそんなことを言われ、私は赤面してしまう。 「え、エッチって!そ、そんな目で別に私は…」 必死に手をふりながら弁解する私が、弁解する痴漢のようにでも見えたのだろう。みんなに笑われ、私は更に顔を赤くした。 「おいおい、榊いじめもそれぐらいにしろよ。」 「蓮見…。」 蓮見と目が合う。よく日焼けしたこの人は、太陽の下がよく似合う。海でも山でも、野生的なのだろう。 いつもは何とも思わないのだが、場所と格好が違うからだろうか、何だか歯がゆい気持ちになる。 目線をはずすにはずせないでいると、美嘉と有里が顔を合わせてニヤッと笑う。 「何々、お二人さん。私たちのことは無視ですか?」 「教師と生徒の禁断の愛とかー?」 その言葉に私達二人とも顔を赤くして、バッと顔をそらした。 「馬鹿言わないでよ!どこがそんな風に見えるのよ!」 「そうだ。大人をからかうんじゃない!」 すると、くいっと腕を引っ張られた。 振り返ると、藤家が複雑な顔で私を見ている。 「藤家?」 私が首をかしげると、藤家はフワリと笑った。 「俺、海はじめて。早く行こう、榊。」 「うん!」 私は藤家に腕を引かれて海へと走っていった。 「あーあ、行っちゃった。」 有里が蓮見をひじでつっつく。蓮見はじっと二人が行った方を見ていた。 「ああ、行ったな。全く、ちゃんと準備運動もしないで…。」 「えー。蓮見ってこんな所に来ても突っ込むところそこ? もしかしたらカップル成立するかもしれないのにー。」 蓮見の眉毛がピクリと動く。有里は気づいていないようだが、美嘉は横目でその様子を見ていた。 「まっ、いいや。とりあえず私は邪魔しに行ってくるねー?」 そうして有里は追いかけて海へと走っていってしまった。残ったのは美嘉と蓮見。 「安池は行かないのか?」 「先生こそ。」 「俺は保護者の役割でここに来たからな。せいぜい今日は肌を焼くことにするよ。」 「そう…じゃあ、私も行くね。有里が何しでかすか分からないから。」 見ると海で有里が藤家に背後から飛び付いて抱きつき、藤家は硬直していた。 美嘉はゆっくり波の方へ歩いていくが、二、三歩行ったところでふと立ち止まり、振り返った。 「先生、隠してるつもりだろうけど。気をつけないとバレちゃうよ。結構分かりやすいんだから。 今のところは二人ぐらいしか気づいてないけどさ。」 美嘉はクスリ、と笑って再び背を向けて歩き出した。蓮見はパラソルのしたにズルズルと体を下ろし、頭を抱えてため息をついた。 「どうにかしなきゃな…。」 [*前へ][次へ#] [戻る] |