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命ーミコトー
12
「『この村は、榊家の巫女と光と影の狛によって代々護られていた。
巫女は血筋で決められるが、狛たちは生まれた時に勾玉の痣があるものとなっていた。
光の狛となる者は身体の右側に、影の狛となる者は身体の左側に現れる。
それは先代の狛によって決められ、受け継がれる。

梁慶8年。
榊家に女児、つまり新しい巫女が誕生した。
赤い瞳を持ち、歴代の中で最も力の強い者だった。
命を司る者という事で、〈命-ミコト-〉と名付けた。
そして同じ年に光の狛、影の狛も誕生した。こちらも非常に強い力を持っていた。
天に近ければ近いほど、つまり頭上近く痣がある者ほど、力が強いと言われているが、二人とも額にあった。
つまりそれだけの力の持ち主だったという事であろう。

 光の狛は、太陽のように熱い気を持っていた。
彼の周りには常に人が居て、村の中で頼られる存在となった。

 影の狛は暗闇でも輝くような黄金の気を持っており、多くの女性を翻弄した。

 だが、命の巫女はあまりの力のため、多くの魔が寄ってくるので、神社の外には、あまり外出する事が許されなかった。
彼女はただひたすらその場で、民の平和を祈っていた。
そして毎日多くの人が彼女の元を訪れ、まるで神のように崇めた。
そんな彼女に普通に接してくれるのは狛たちだけであった。

 平和で安定な日々はずっと続くかに思えた。

 ある日、神社のある山に通路が開かれてしまった。
一人のものがよみがえってしまった。そこから村へ不幸が訪れだした。

 飢饉、土砂崩れ、水不足、伝染病、様々な災難。

 ミコトの巫女は…』

 ここからは切り取れている。でも、これがミコトの巫女がいなくなった原因に繋がるんだと思う。」


 藤家は目が少し疲れていたのか、眉間をつまみ、少し顔を上げて、本をいったん閉じた。

「じゃあ、二人にもその、痣が…?」

 藤家は髪をかきあげた。左耳の後ろに勾玉形の痣があった。

 蓮見をチラリと見ると、襟元を引っ張って見せた。右の鎖骨の下に藤家と同じような痣があった。

「それ、生まれたときからあったの?」

 二人とも頷いた。

「これには、あまりいい思いではないな。」

 藤家は髪の毛で痣を再び隠しながら言った。

「俺は、これはオシャレタトゥーだということにしているぞ。」

 そう得意満面に言う蓮見を見て、私は笑ってしまった。
蓮見もそうは言っても、やはり良くない思い出もたくさんあっただろう。

 そこで私はふと気が付いた。


「痣のことは分かったけどさ、目の色のこととかは書いてないの?」
「そういえばそうだな。」

 蓮見も首をかしげた。すると、藤家は本を手にとってじっと見つめながら言った。


「本人たちに聞くのが一番かもしれない。」
「本人?」
「榊、カッター持ってきてくれない?」
「カッター?」
「うん、お願い。」

 藤家のやろうとしていることは分からないけど、真面目な顔で頼まれたので、私は蓮見の机の引き出しを探し、カッターを持ってきた。
それを藤家に手渡す。

「お、おいっ!」

 何をするかと思えば、藤家はカッターの刃を出し、いきなり自分の左手の人差し指に刃を突きつけた。

「…っ」

 プクリと赤い血が指先から出てきた。
藤家はその血を裏表紙に描かれている陰陽の黒い方へと落とした。

「藤家!何やってるの!?指が…ていうか、本が!」
「しっ!…黙って。」

 本が金色に光り、微かに感じていた本の霊力が強まる。
ふっ、と藤家の藤色の瞳の色が消え、黒い瞳が現れた。


『私を呼ぶのはお前か、美しい桔梗』


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あきゅろす。
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