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命ーミコトー
11
「でも、全部切り取られたわけじゃないし。ある部分だけでも読もう。俺も、小さなころに聞かされたことだからぜんぜん覚えてないし。」

 藤家は手を伸ばし、私から本を取った。パラパラ、とページをめくる。そして眉間にしわを寄せた。

「どうしたの、藤家。」
「先生、これ随分古い言葉で書かれているみたいだけど、分かったんですか?」
「え?」

 確かに覗いてみると、現代の言葉では書かれていない。
それはそうか、ミコトの巫女が生きてたのって何百年、もしくはそれ以上ずっとずっと昔なんだから。

 私は蓮見をチラリと見た。蓮見はニカッと笑った。

「俺、数学以外ムリだから。多分、榊にも負けるかもな。」

 それは期待できない。私は古典はダメなのだ。拒絶反応が出てしまう。

 そんな私たちの様子を見て、藤家は盛大にため息を付いた。

「本当、二人ともダメダメだね。」

 私たちは何も言い返せなかった。

「とりあえず、ここは空気が悪いから出ましょうか。」

 藤家の後に続いて私と蓮見は蔵から出た。

私たちは蓮見の部屋に戻ってきた。そして部屋の真ん中で本を囲んで丸くなって座る。

「あれ?おかしくない?」

 私はふとあることに気づいた。

「榊、どうしたの?急に。」

 藤家は不思議そうに私の顔を伺った。

「おかしいよ。どうして蓮見この本読めないわけ?一回は読んだことがあるんだから、読めるはずでしょう?」
「あ、そういえば…。」

 私と藤家は疑わしげに蓮見の顔を見た。蓮見は苦笑いしている。

「実は、いや、言っても信じてもらえないかもしれないんだけど。」
「何?」
「俺、その本現実では読んでないんだよね。」

 意味が分からず、私も藤家もポカンとしてしまう。

「いや、読んだぞ。読んだんだけど。読んだのは、夢の中なんだ。」
「夢の中?」

「ああ、去年の四月、入学式の終わった夜だったかな。普通にベッドで寝ていたら、俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきたんだ。
俺はそのままその声に引き寄せられるように、ベッドから起き上がって部屋から出た。

 何でそれが夢だと気づいたかは、俺、着物を着ていたんだ。古い感じの。
それで、ああ、これ夢だなって。たまにあるだろう?夢だと気づくことって。

 で、そのまま俺の足は蔵へと進んでいったんだ。いつもは鍵がかかっているはずなのに、開いていた。
中に入ると、床にこの本が一冊落ちてあった。光っているように見えた。

 俺はその本を手に取った。文字は読めなかったけど、なぜか内容は頭に響いてきたんだ。

 目が覚めて、変な夢だったな、と思ったんだけど、どうもただの夢のようには思えなくて。
俺はあの蔵に行ってみたんだ。鍵を開けて。そうしたら、夢の中と同じように床にこの本が落ちていて…。」

 私はなんといったら言いか分からなかった。そんな不思議な出来事が…。
でも、私たちの身に起こっている出来事は、普通ならありえない事ばかりだ。
だから、その事ももしかしたら現実にありえるわけで…。

「お前ら、やっぱり信じてないだろう。だから言うのやだったんだ…。」

 蓮見は目に見えて落ち込んでいたので、私はあわてて言った。

「いや、そういう訳じゃないよ?それが本当だとしたら、それだけその本は重要な意味を持つってことでしょう?」

 私たちは本に目を落とした。何だか不思議な力が感じる気がする。

「じゃあ、読むから。」

 藤家は本に手を伸ばし、表紙を開いた。
そうして、きれいな声で、私たちに分かりやすく、ゆっくり、簡単な言葉に直しながら読んでいってくれた。



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