命ーミコトー 10 「蓮見の家が普通じゃないっていうのは分かってたけどさ…。」 「……これはない。」 私と藤家は半ばあきれぎみに言った。 蓮見に半強制的に連れてこられて来た場所は、書庫というか、江戸時代とかにありそうな立派な蔵だった。 しかもこれは書物担当の蔵で、来る途中に他にもいくつか蔵を目にした。敷地が広すぎる。 絶対地主の稼ぎだけではないはずだ、これは。 中に入るとあまりの埃っぽさにむせた。薄暗く、時代を感じさせる雰囲気もあり、少し気味が悪い。 「何でここ、こんなに埃っぽいの?」 「使用人もここには立ち入り禁止だから。」 使用人が入れないからって、自分たちで掃除しようとは思わないのか。 「で、先生。ここに何が?」 「ああ…。」 蓮見は少し辺りを見渡すと、脚立を持ってきて手前の棚のところに上り、三段目にある一冊の古びた本を抜き取った。その本を大事にわきに抱え、脚立から降りて来た。 「蓮見、その本は?」 蓮見はその本を私に手渡した。赤い表紙に陰陽の模様が描かれている本だ。 「俺たちは多分、これから大変なことに巻き込まれていくんだと思う。」 私はじっと本を見つめた。元はと言えば、私の不注意のせいで二人を危険に巻き込んでしまったのだ。 「榊…。」 藤家は私が少し落ち込んでいることがわかったのか、そっと私の肩に手を置いた。 「大丈夫だ。榊のせいじゃない。これは、運命のようなものなんだ。」 蓮見は棚に背をもたれながら言った。 「うん、めい…?」 蓮見は頷いた。 「俺たちは知らなすぎるんだ。自分たちのこと、過去に起こったこと。なぜ、ミコトの巫女が命をかけてまで封印したのか、それは何なのか。なぜ狛は消えたのか。 俺たちが再びと言っちゃあ可笑しいが、出会ったのか…。」 蓮見は本を指差した。 「俺はこの本で自分のことを去年知った。多分、他にも必要なことが書かれているだろ。戦うためには、まず知識から、だからな。」 沈黙が流れた。蓮見は何だか少し照れたように笑った。 「おい、お前ら、何か言えよ。すべったような雰囲気出すな。」 「すごい。」 「え?」 私は本を胸に抱きしめながら言った。蓮見は拍子抜けしたような顔をしている。 「そうだよね!蓮見!まず何か起こる前に、こちらも対処法を練らないとね!そのためには、知ることからが一番だし。」 「先生、俺も初めて先生のこと先生と思えましたよ。」 「さすが、蓮見。伊達に成人してないんだね!」 「お、おお。ありがとう……って、何だか馬鹿にされている気もするが…。」 気のせいです、と私と藤家は口を揃えて言った。 「本当はもっと早くこの本をお前らに見せたかったんだが、ちょっと記憶があやふやで。どこに閉まってあったかと思って探し回ってたんだ。」 私はその本をパラパラと捲ってみた。 「蓮見…コレ…。」 私はあるページを蓮見に見せた。そこは無残にも破り取られていた。 「何だ…コレ。俺が前見たときは、こんな…。」 「一体、誰が…。」 「ここに知られたらマズイことでも書かれてたんだろう。誰かが故意に破ったんだ。」 「誰かって…。」 知られたらマズイことって…。誰にとって?ゾクッと寒気が走った。 そうだ、私たちは本当に大変なことに足を踏み入れてしまったんだ。 「でも、蓮見前に読んだんでしょう?内容とか覚えてないの?」 「俺の記憶力をなめるなよ。」 フフン、と蓮見は得意げに笑った。私と藤家は期待の目で蓮見を見る。 「自慢じゃないが、俺の記憶は1日も持たない!」 「本当に自慢じゃないじゃん!」 バシッと蓮見の背中を叩く。さっき見直したと思ったら、すぐにコレだ。呆れてしまう。 絶対にこんな大人にはなるまい、と心に誓った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |