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命ーミコトー
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「はあ…。」

 私は大きなため息をつき、周りから見たらさぞ迷惑なほど落ち込んでいた。
学校カバンと、もう一つ大きなカバンを持って、登校してきた。

 今日は火曜日。あの事件の翌日である。

「おい、榊。イライラするくらい落ち込んでるな。」

 バシン、と勢いよく蓮見に背中を叩かれる。いつもはそれに食いついて、言い返したり、反撃したりするのだが、今はその気力さえない。
これは、本当に何かあったな、と蓮見も感じたようだ。

「分かった。補習終わったら話聞いてやるから、それまで今日も頑張れよ。」
「……はい。」

 そんな状態で補習に集中できるわけもなく、その日何度も藤家に怒られた。
だけど、その最中も上の空で、私はこれからどうすればいいのだろう、と考えめぐらせながら落ち込み続けていた。

 その日久しぶりに補習終了はビリであった。

「終わった…。」

 やっとプリントが終わり、机に突っ伏す。

「ほら、榊。終わったなら先生に提出しなきゃ。」
「んー。」
「ちっ。」

 藤家は私が使い物にならないと分かったのか、舌打ちをして、ブツブツ言いながら、代わりにプリントを蓮見のところへ提出しにいってくれた。

 何だかんだいって、藤家本当に面倒見いいよな…。そうは見えないけど…。

 そんなことをボーっとしながら考えていた。すると、ポカリと頭を叩かれる。
顔を上げると、蓮見が腕組して机の前に立っていた。

「ったく、本当重症だな。とりあえず、資料室で話し聞くから付いて来い。」
「はい。」

 私はノロノロと席から立ち、カバンを二つ持って蓮見の後を付いていく。

「藤家、お前は何でついて来るんだ?」

 見ると、藤家もカバンを持って私の後ろについてきている。

「何か、俺がいて悪いことでも?」
「……いや。」

 しょうがないので、三人で資料室に入っていった。


「んで、何があった?」

 蓮見は部屋にカギを閉めてから、私と藤家が座っているイスの向かいのイスに座った。

「いや、あのですね、実はですね。」

 私は昨夜の出来事を二人に話し始めた。

 昨日、家に帰ると、玄関に父親が仁王立ちで立っていた。般若のような顔をして。
もともとごつい顔立ちなので、あまりの形相に、わが父ながら悲鳴を上げそうになってしまった。

『お、お父さん?どうしたの…。』

『おい命。今日の昼の出来事は何だ?』

『は、はい?』

『今日の昼前ぐらいに、あの場所から封印されたはずの者が出て行ったように感じたが?
すぐに行ってみると、入り口は開いているし。慌てて母さんに閉めてもらったから大丈夫だったものを。
だが、重要な一匹が出て行ってしまったように見えたが?』

『そ、それは…』

 私は正直に父親に話した。

『なるほど、そうだったのか…』

 思ったよりも冷静に落ち着いて話を聞いていてくれたので、大丈夫かな、と思ったのだが。わが父はそんなに甘くなかった。

『馬鹿やろう!お前は榊家の恥だ!恥!なんて事を…ご先祖様に申し訳がたたん…。どう詫びればいいのだろうか。』

『お、お父さん、私…』

『もうお前は勘当だ!封印するまで帰ってくるな!』

 



「ということで、現在家を追い出された状態でして…。」

蓮見も藤家も口をポカンと開けている。
そりゃそうだろう。
蓮見が私の持っている大きなカバンを指さして言った。

「じゃあ、その荷物は…。」
「今朝捨てられる前に急いで片付けた、自分の身の回りのものでございます。」

 私はぎゅっと荷物を抱きしめた。
あのままだと、私の荷物全て家の外に出されそうな勢いだったのだ。
だから、必要なものは慌ててまとめてきた。こっそり朝抜け出すとき母親がこう言ったのだ。

『お父さん、あのままだと私の言うことも聞かないから。2、3日したら頭も冷えると思うから、その間お友達のところに避難しておきなさい。
こっちで説得するから。このままだと、あの人何をしでかすか分からないからね。大丈夫そうになったら、私が命に連絡を入れるから。』

 なので、私は母から連絡が来るまで、自分の心身の安全のためにも、家には帰れないのだ。

「で、榊これからどうするの?」

 藤家が心配そうに言ってきた。

「ど、どうしよう?」
「どうしようって、俺に聞かれても…。」
「お前、安池か松下の家はどうだ?」

 そうだ。家に置いてくれるほど仲のいいのはこの二人しかいない。
中学のときは、まだ小学生のときのトラウマがあったので、なかなかそこまで仲の良い友達を作ることができなかったのだ。

「そうだ!ミカとユリ!」

 希望の兆しが見えた。だが、すぐにその光は消えた。

「ダメだ。ちょうど今日から彼氏と旅行行くって…。あの二人金持ちだからな、結構遠くに行くんだろうな。2、3日行くとか言っていたような…。」

 私たち三人は顔を見合わせ、同時にため息をついた。

「もうダメだ…ホームレスになるしか…。それで、本でもだそうかな。『ホームレス女子高生』とか。」

 そんな風に現実逃避し始めた私を見かねて、蓮見が言った。

「しょうがない、しばらく家に置いてやろうか。」



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あきゅろす。
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