命ーミコトー
3
「榊。さっきの声が言ったこと。ミコトの巫女、そして狛たち。狛たちって俺たちのことでしょう?」
藤家が神妙な顔で言った。
「そう、それでミコトの巫女ってのがお前のこと。」
蓮見が続けて言う。
「何で?何で二人とも知ってるの?」
すると蓮見と藤家が顔をあわせた。
「俺は、小さな頃、おばあさまから聞かされたから…。」
藤家が目線を床に落として言った。
「そうか。俺は割と最近蔵で古い本を読んで…。あれは確か去年の四月くらいかな。榊は?」
「私は…この目が先祖帰りだって言われて。父親から耳にたこが出来るほど、何度も、何度も…。」
三人とも前から知っていたと言うことは、確かにただの偶然ではない。むしろ必然的、運命的な何かが…。
「じゃあ、光の狛と影の狛って…。」
「ああ。多分俺が光の狛。」
蓮見が腕組みしながら言った。
「じゃあ、俺が影の狛か…。おばあさまが生きていたのって、俺がまだ小さな頃だったから、あんまり詳しくは話してもらったこと覚えてないんだけど。」
「それより、さっきのアレは何だったんだ。何だって、いきなり…。」
蓮見が私に聞いた。そうだ、あの出来事は私が多分引き起こしてしまったんだ。
「私の…せいなの。」
私はこの間の金曜の出来事を二人に話した。いつもと様子が違う何者かが封印された石。
それを蓮見に会ったことで中途半端な状態にしてしまっていたこと。
それが多分、ミコトの巫女が命がけで封印した者で、先ほどのアレは多分それだろう、ということ。
「そうか。俺のせいだな。そんな大事なときに声をかけてしまって。」
蓮見が頭をかきながら申し訳なさそうに言った。
「そんなこと無いよ!すっかり忘れてたのは私だから…。」
「おもしろくない。」
「え?」
いきなり藤家が口をはさんできた。
少し驚いて藤家の顔を見ると、ものすごくいじけた様な顔をしていた。
「藤家…どうしたのその顔…。」
少し呆れて笑ってしまう。だって、あまりにらしくないから。
「先生だけ、榊の巫女さん姿見たんだ。おもしろくない。」
「おいおい、今の話で食いついたのはその部分かよ。そこはどうでもいいだろう。」
蓮見も呆れて笑った。藤家は更に機嫌を悪くした。
「俺だって、ちょっと見てみたかった。」
少し口をとんがらせながら言う藤家。
その姿はさながら幼稚園生の男の子のようで。
思わずプッと笑ってしまった。
「何だよ。」
「ふ、藤家可愛いんだもん。」
口に手を当てて笑ってしまった。藤家の顔が少し赤くなる。
「あ、それも可愛い。」
「――!み、見るな。」
顔を背ける藤家。その様子がおもしろく、ますますからかいたくなる。
藤家のそむけた方向に私も追う。見ると真っ赤だ。
「わあ!藤家そんな顔もできるんだ。」
「俺は見世物じゃない。」
だんだん藤家の赤みが引いてきて、いつもの調子に戻ってくる。
私は藤家の頭をいい子、いい子した。
すると、藤家は何か思いついたようにニヤリと笑い、顔をズイ、と近づけてきた。突然綺麗な顔がすぐ目の前にあるものだから、私の方は少し引いてしまう。
「じゃあ、今度、見せてくれる?」
「え…。」
グイ、と藤家は右手を支えに私の方に上半身寄った。
非常に、近い。
今度はこちらが顔が赤くなってきてしまう。
「いいだろ?」
「わ、分かった!分かったから離れて!!」
藤家の肩を掴んで押し戻す。
藤家は機嫌を良くしたようで、満足そうにしていた。
そしてチラリ、と蓮見を見た。
「藤家…お前、分かっててやってるだろう?」
「何をですか、先生。」
無表情で言ってのける藤家に、蓮見は言葉が出ないよう。
でも、私はそのやりとりが全く理解できないでいた。
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