[携帯モード] [URL送信]

命ーミコトー
10
あれからすぐに二人ともまた消えていってしまった。
それにしても、やっぱりミコトの巫女と瑠璃さんの恨みは親の仇の娘というだけでなく、恋愛も絡んでいたとは…。
それに、これはあくまでも私の推測だが、もしかしたら瑠璃さんはミコトの巫女に対しての信頼を裏切られたと感じたこともあるのではないだろうか。
それにしても、色々と事を様々な方面から知っていくうちに、全くの悪人というものが存在しないように思えてくる。


「あ。」


ふと大事な事を思い出した。


「どうした?榊。」


どうして今まで忘れていたのだろうか。私は蓮見の腕を掴んだ。

「な、何だ何だ?」
「は、蓮見、新藤先生はあれからどうした?」


しばらく蓮見も「・・・」という感じだったか、すぐに口をあんぐりあけてあせり始めた。


「そ、そうだ。俺、あれからお前を運んだから…。というより、最後は新藤先生は瑠璃に乗っ取られたままだった…。」


新藤先生…。


全く関係のない人を私たちは結果的に巻き込んでしまったのだ。一体彼女は今どうなっているんだろうか。


「今から訪ねに行ったら?」


藤家はそう言うと携帯を取り出してどこかに電話をかけ始めた。少しの間話すと藤家はすぐに電話を切った。

「新藤先生の住所、分かったよ。」
「えっ、早っ。」

藤家はニヤリと笑った。

「空狐山の近くだそうだよ。」

新藤先生の家は、本当にどこにでもあるような普通な家庭だった。
ミコトの巫女と過去に前世で何らかのかかわりがあったようには見えないし、本当に全くの無関係にもかかわらず巻き込んでしまったということだ。
先生のやったことは許しがたいが、でもどこかやっぱり憎みきれないのだ。共感する部分もきっとあるだろうから。

私は蓮見と藤家と顔をみあわせると、軽く深呼吸をして玄関のチャイムを押した。しかし反応がない。もう一度押そうとしたところでゆっくりと扉が開いた。
そこには弱々しく扉にもたれかかるようにしてこちらを見る新藤先生の姿があった。


「……榊、さん…。」


新藤先生ははじめ私の顔を見てかすれた声で呟くと、蓮見の姿を見て体を強張らせた。瞬間顔は青ざめ、すぐさま扉を閉めようとするが、蓮見の力強い腕がその間に割り込んだ。

「あ……。」
「新藤先生、少しお伺いしたいことがあるんですが、いいですか?」

新藤先生は目線を地面に泳がせたが、観念したように首を縦に振った。

「今、ちょうど誰も居ないので、どうぞ。」


あんなにいつも自信に満ち溢れていた新藤菫華とはまるで別人のようで、先を歩くその後姿は何かに怯えるように小さかった。


「どうぞ。」


新藤先生の部屋に入ると、お茶を出してくれた。
ふとその手の甲を見ると、そこにはやはりうっすらと花の模様が見えた。私のその視線に気づいたのか、新藤先生はサッと手をひっこめた。

「その花の紋様…。」
「…あの女が私に残していったの。」

新藤先生は恨めしそうに自分のその手の甲を撫でた。

「どうしてこんな事になったのか…。」


そう呟く新藤先生に心が少しだけ辛くなった。


「欲に負けた私が悪いのかしら。でも、あの女は本当に…。」


チラリと伺うようにして新藤先生は私の顔を見た。

「榊さん、あなた、あんな恐ろしい女と一体どんな関わりがあるの…。」
「それは…。」

どうしよう。これは正直に言うべきなのだろうか。不本意ながら巻き込まれてしまった新藤先生には真実を知る権利があるだろうが、かと言って、信じてもらえる保障はないし、普通の人はそんな事信じたりしないだろう。
私が考えあぐねていると、藤家が口をはさんだ。


「新藤先生、あの瑠璃という女はあなたに何か話していませんでしたか?自分の事とか、榊に対することとか。」


新藤先生は少し思い出すようにして視線を上へと移した。どうやらうまく藤家が口を挟んでくれたことで、新藤先生の気も少しそれてくれたようだ。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!