■それぞれの、形
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休暇が終わり(といっても、マデイラに居たのは式当日を含め、3日間だけど)、日本での仕事漬けの毎日が、また始まった。
ポルトガル支社を出す為の日本での基板作りに加え、他いくつかの仕事を抱えているので、仕事だけで月日があっと言う間に過ぎていく。相変わらず、山下さんと組んでの仕事も多い。まあ、山下さんが仕事できる人だし、仲良いし、すごくやりやすいんだけどね。
お昼、社員食堂に向かって歩いていると、後ろから山下さんが小走りでやってきた。
「永井さーん、聞いてくれよー。」
ちょっといつもと違うトーンと口調。何があったの?
「ポルトガル支社のプロジェクト。本格的にチームを立ち上げる話になって、俺、おもいっきりチームリーダーにされてさ。」
すごい話なのに、なんでそんなに元気がない。いつもなら、喜んでやるくせに。
「来週から、ポルトガル出張だって。しかも、帰国予定不明の。」
長期出張かぁ・・・それはしんどいなあ。・・・え?長期?
「ちょっとまって?来月のロンドン出張は?」
来月の頭に、山下さんと2人で抱える案件で、ロンドンに行くことが決まっていた。確かに、9割方、完成してる案件だけど、ロンドン支社へ引き渡すのには、ちょっと早いような気が。
「そうなんだよ。俺の代理として、ロンドン支社から1人だして、そのまま引継ぎさせるって。せっかくここまでやってきたのにさー。」
山下さんは、とても残念そうに言う。まあ・・・そうだろうなぁ。
「だから、ロンドンの件、よろしく頼むな。永井さんなら全く問題はないけど、ロンドン支社から、どんな奴がくるか、分からないしな。」
確かに・・・。
久々の、1人出張かぁ・・・。難しい人と行くのなら、1人で行くほうが気楽だけど、山下さんと出張って、何気に楽しかったからなあ。仕事ははかどるし、オフだって退屈しないし。海外出張の度に、暇を見つけては、現地の有名どころ巡ったりしてたし。
意見を押し付けたり、主張しすぎたりはしないけど、もちろん、おとなしいわけではない。憎まれ口なんかは、結構叩くし。
こういうのを、気が合うっていうのかな?
まあ、山下さんが、どう思ってるのかは分からないけど。
〈マイク・ウォーレンです。よろしく。〉
ロンドン支社について、山下さんの後継として紹介されたのは、現地採用のイギリス人。将来を有望されている、若手の成長株らしい。
確かに、仕事は出来る。理解力もあるし、テキパキとそつなくなんでもこなす。
ただ、ちょっと強引なとこがある。人の意見もあまり聞かないし。
見当違いなことをしないし、言わないから、問題はないけど、一歩道を踏み外したら、面倒なことになりそうな人だ。
ロンドンに着いて初日、今日の仕事が終わったところでジョアンに連絡を入れる。
別に、会いたいとかではないが、『絶対連絡ちょうだい』と言われてるので、とりあえず。
まあ、向こうも忙しい人なので、どうなるかはわからないけど。
ロンドン初日は、夜、ホテルでゆっくりしてたけど、次の日はマイクに連れ出され、飲みに行く羽目に。
正直面倒なので、行く気はなかったが、強引に押し切られ、市内のバーに。
話をしていて、つまらないわけではないが、なんか、ひっかかるのよね、この人。
そう思いながら話を聞いていると、携帯に着信が。
〈ちょっとごめん、電話だわ。〉
私はマイクにそう言って、にぎやかな店内から外に出る。相手はジョアン。
〈雅恵、電話くれたでしょ。もしかして、ロンドン来てる?〉
ちょっとはずんだ、ジョアンの声。
〈昨日から。一週間もしないうちに、日本に帰るけど。〉
〈今から会える?〉
マイクと一緒にいるけど、きっとジョアンと話をするほうが楽しいし、結婚式から3ヵ月も経って、久しぶりなのもあり、OKした。
現在地を告げると、30分くらいで行くよ、と言って電話は切れた。
店に戻ると、マイクは他の女性客と話している。なので、自分が座っていた場所に戻り1人で飲んでいると、
〈ごめん、ちょっと声掛けられちゃってさー。〉
と言いながら、マイクが戻ってきた。声を掛けられて、別の席へ行ったのか?とも思ったけど、まあ、どうでもいいや。
〈私もごめん。今から友達と会うことになって。今こっちに向かってるんだけど。〉
友達・・・って言っていいのかは、分からないけど。リカルドほどではないにしろ、有名な人だし。
でも、同い年で、気さくな人だから、妙に親近感が沸くのよね。
会社の人たちは、気軽に声掛けてこないしね。山下さんは別として。
まあ、目の前に居るマイクも、その点では、気さくと言えば気さくかな。
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