■それぞれの、形 12 そう意気込んで、次の日を迎える。 プレゼンは難なく終了。ロンドンでの仕事も全て終了したので、帰りの飛行機も予約。さて、ここからが問題。 〈日曜に発つんだって?残念だなあ。雅恵ほど素敵な人に会えることなんて、奇跡に近いのに。〉 マイクが薄っぺらい台詞を言う。 今までは一緒に仕事しなきゃ、っていうのがあって、角が立たないようにしてきたけど、仕事も終わったことだし、もう遠慮しなくてもいいかな・・・なんて思いつつ、適当にあしらっていると、前方から支社長が歩いてくる。 〈永井さん、ウォーレン君、ご苦労さま。どうだい、これから一緒に食事でも。永井さんはもう日本に帰ることだし。〉 という、支社長の言葉。しめた。めんどくさいマイクと2人きりより、支社長がいたほうが、何倍も楽しい。 マイクも支社長には逆らわない。せっかくの食事の誘いを断って、心象を悪くしたって何の得もないから。 常に高いところを狙っているマイクのこと、そこら辺のぬかりはない。 支社長は『ちょっと用をすませてから』というので、すこし社内で時間を潰すことに。19時に正面ロビーで落ち合うことに。 〈ちょうどよかった。私も、自分の荷物片付けしなきゃ。ちゃんとデスク用意もらっちゃったから、自分の席みたいに使っちゃったし。マイク、適当に時間潰してもらえる?〉 私はマイクにそう言ったが、 〈僕も手伝うよ。雅恵には感謝してるよ。いい仕事できたのも雅恵のおかげ。だからそのお礼。〉 マイクはそう言って引かない。 結局、たいした物もない荷物の片付けを2人でするはめに。片付け自体は本当にたいしたことはない。ただ、パソコンやら書類やらと何かとかさばるものがあるので、これを食事に持って行くのは・・・。会社に置いといても、明日取りにこなきゃいけないし。 〈まだ時間あることだし、先に荷物だけホテルに持って帰る?そのほうが後が楽でしょ?〉 そう言ってマイクは私の荷物をもって歩き出す。 邪な考えさえなければ、紳士なんだけどなあ・・・。 でも、マイクの言うことも最もなので、一旦ホテルに荷物を置きに帰る。部屋の中までマイクが運び入れてくれて、そして支社長との待ち合わせ場所へ。 支社長との食事の間は、ほぼ仕事の話は無。日本の話を2人でマイクにしたり、逆にイギリスの話を聞いたり、他にプライベートな話も。 〈私が日本にいた時からそうだけど、仕事ばかりで彼氏には怒られないのかい?〉 支社長がそんな話まで振ってくる。 〈その点なら大丈夫です。怒る人がいませんので。自分では認識してなかったのかもしれないんですが、理想が高いのか、中々この人!っていう存在が現れなくって。〉 私はそう言いながらマイクをチラっと見る。 遠まわしに、『あんたには興味はない』と言う意味。気づいてても、そんな私の意見させ無視しそうだけどね、この男。 その言葉を聞いた支社長はハハハと笑いながら、 〈永井さんにつりあうとしたら、よほどレベルが高くなきゃなあ。私は合格ラインに入ってるかい?〉 と冗談まじりに聞いてくる。 〈支社長でしたら、逆にレベルが高すぎて、でも、独身だったら言うことないんですけどね。〉 まず私の性格からして、どんな理想のタイプとかでも、妻帯者はまずムリだ。 〈ありがとう。今度本社に行ったときに、みんなに自慢しておくよ、永井さんに合格点もらったって。〉 私と支社長のそんな会話を聞いてたマイクは、 〈僕も支社長レベルになれますか?〉 といって話に入ってくる。 20年くらい経てば・・・なれるかもしれないけどね。元々頭も切れるし。 20歳くらい歳をとって、大人としての落ち着きと、視野の広さを身に着ければ、きっといい男になると思う。 〈そうだなあ。ウォーレン君は男前で仕事も出来るし、私と同じ歳になった頃は、更にレベルが高いだろうなあ。〉 支社長はやんわり言うが、結局それは先の話で、今はムリってこと。多分、支社長も私と同じ見解かも。 マイクも、遠まわしに『今は不合格』と言われたことには気づいてる。私の意見は無視しても、支社長に言われたことには反発はしないみたいだ。ただ、 〈じゃ、このあいだの友人と僕とでは〉 そう話を振ってくる。ジョアンを出してきたか・・・。 〈彼は合格点なんだけどね、忙しい人だから〉 私が言うと、支社長が、 〈永井さんより忙しい友人って、何してる人なんだい?〉 そう割って入ってくる。 〈久実のご主人の、友人です。〉 その一言で、ああ、と納得したようだ。 話が見えてないので、マイクの方で、 〈支社長、その一言で分かったんですか?〉 と不思議がっている。 支社長は久実のだんなのリカルドがサッカー選手ってこともしってるから、その友人ってことは、同じプロ選手って分かったんだろう。 ジョアンは申し分のない人だと思う。もっと身近な存在だったらの話だけど。 友人なんだけど、その先を考えると、どうも現実味に欠ける。私が仕事してないとか、もっと自由に動ける身だったら別だろうけど、仕事辞めるつもりもないし。 [*前へ][次へ#] [戻る] |