■青天の霹靂2 5 部屋に入った途端、長町さんはベッドに倒れこんだ。 「ちょっと、大丈夫?」 私は側に駆け寄る。その私の手を引いて、長町さんは抱きついてきた。 「俺が寝るまで、このままでいてくれ。」 子供みたいな事を言う。でも、こんな長町さんを見たのは初めて。 いつもはもっとしっかりとした人。明るく楽しい人だけど、冷静で頼れる人。 でも、今日の長町さんは全然違う。ちょっと頼りなさそうで…年上だけど…かわいい。 「いいよ、おやすみ。」 私はそう言って、そんな長町さんを抱きしめた。 私が結婚するって話は、瞬く間に全社に広がった。 特に、いつも同じ現場で働いている天神町の連中は、容赦無く、私を問いただす。 「所長、相手って誰?どんな人?」 何も知らないアルバイトの学生が、ニコニコしながら言う。 大和石油の、しかも天神町の所長…てことは、言いづらいんだよね。 その私の心を読んでいるかのように、有馬はニヤニヤ笑う。 うちのSSでただ一人、長町さんを知っている有馬。 そういえば、有馬と一緒に行った居酒屋で長町さんに会ったのが、付き合うようになったきっかけ。 いつも私のことを「たくましい」だの、「男みたい」だの、さんざんからかってくる有馬。長町さんとのことも、すぐに言いふらすだろうと思っていたが、予想外、有馬はいままでずっと黙っていてくれた。 しかし、 「どっちがたくましいかといえば、所長かな。」 なんて、余計なことを言うけど。 三月。 春といえど名ばかりの、まだまだ寒い日が続く毎日。たしか、そんな歌詞の歌、あったなぁ。 私にとって三月といえば年度末。会社の年間売上がかかっているから、今月は特に気を抜けない。 しかも前の月、二月は、いつも店は暇になる。その分、売上が落ちているから余計、頑張らねば。 こんな月に、式挙げるんじゃなかったかな? 式当日。ウエディングドレスの着つけをしながら、そう思った。 昨日も仕事した。明日も仕事。新婚旅行なんて、夢のまた夢。 ほんとに今日、結婚式なんだろうか、しかも自分の。 いまいち実感がわかない。 三月だから忙しい。それもあるんだけど、サービス業だから、日曜日でも店は開いている。そのせいで、会社から来る人は限られている。誰かは仕事に出なければならない。だから各店舗一・二名ずつ。 そして中途半端に余ったのが本社の連中。 現場の人間と一緒にすると、人数が多すぎるし、現場の人間が楽しめない。かといって、社長、副社長、常務の三人では席が余りすぎる。 長町さんも、同じ悩みを抱えていた。それならいっそ、両者の本社の人間を、同じ席にしてしまえ――。 [*前へ][次へ#] [戻る] |