■青天の霹靂2
4
親が反対とか、友達が「やめとけ」って言うとか。
そんなのだったら聞いた事があったけど、会社が結婚に反対するなんて何て事か。
『おお、俺も同じ事言われた。』
電話口から聞こえてくる長町さんの声。
やっぱりか。向こうはさしづめ、長町さんは大和に残って、私に会社を辞めろってか。
『美恵子は、仕事辞める気は無いのか?』
「何?それ。」
『いや、おまえが仕事しなくても、俺の稼ぎだけでもやって行けるぞ。』
長町さんの言葉に、あたしはちょっとムッとした。
「辞められないのわかるでしょ。同じ仕事なんだから。」
ちょっときつい口調で言い返した。
『そうだけどさ、女なんだからそこまで仕事にこだわらなくてもいいんじゃないか?』
長町さんも少しきつい口調でそう言った。その言葉に私はカチンときた。
「長い間勤めてた会社が私を必要としてくれてるの。それに応えて何が悪いの?」
ほとんどケンカ腰で言い返す。すると長町さんから返ってきた答えもケンカ腰。
『おまえ、俺と仕事と、どっちが大事なんだよ。』
私は即答し、電話を切った。
「仕事よ!」
「『俺と仕事とどっちが大事』なんて、おまえは女か!」
電話を切った後、切れた電話に向かって私は叫んだ。
しばらく頭に血が上った状態で、イライラしていたが、時間がたつにつれ、冷静になってくる。
仕方ないんだよね。長町さんにとって私が川岸にいることで立場が悪くなるんだし、男の人が会社を辞めるわけにもいかない。世間一般でいえば、私が会社を辞めるのが普通なんだろう。
でも辞めたくないんだもん。なんだかんだ言ったって、私は仕事が好きで、会社が好きなんだ。
ガソリンスタンドっていう職種がピッタリで、しかも今の職場の居心地が抜群なんだ。
だからこれだけは譲れない。
…でも「仕事よ!」なんて即答したのは、ちょっとやりすぎだったかな。
次の日。仕事が終わって携帯電話を見ると、メールが一件来ていた。発信者は長町さん。
『子狸にて待つ』
って、果たし状かい。
子狸は、いつも行ってる居酒屋。帰り支度をして、車でその場所へ向かった。
店に入ると奥の四人テーブルで一人で飲んでる長町さんを発見、向かいに腰を降ろした。
「ゴメン!」
私の姿を見るなり、長町さんはテーブルに頭をつけて謝った。
「俺が悪かった。美恵子の立場も考えずに、会社に言われるまま乗せられて…。」
「もういいよ、怒って無いから。そうだよね、長町さんも大変だよね。私が川岸にいることで、立場悪くなっちゃうんだから。」
私がそう言うと、長町さんはガバッと顔をあげて私の顔を見る。そしてほっとしたように、
「良かったぁ、許してくれないかと思ってた。」
そう言ってビールを一口飲んだ。いつも飲んでも、そんなに変わらない長町さんの顔が赤い。
「ねえ、何時からどれくらい一人で飲んでたの?」
「一時間半くらい前から…生中が…一、ニ、三、四…五杯目。」
そう言った長町さんの目が座ってる。完全に酔っ払いだ。
車で行った私は飲むにも飲めず、ウーロン茶で食事して、酔っ払った長町さんを助手席に乗せ、家に送って行こうとした。
「なあ、今日は美恵子と一緒に居たい。」
隣に乗っている酔っ払いが言った。
「一緒にって…どうするの?」
「ホテル行こう。大丈夫、着いたら俺、すぐ寝ちゃうと思うから。」
じゃあ、帰って寝ろよ。と言いたかったけど、そう言う長町さんがいつもと違ってたから、言われるまま車を運転した。
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