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『魔王に就職』
勇者参上。《15》

・・・・

 暗い、暗い、地下水路。

 ズルリと、黒い影が水際から細い通路に乗り上げる。

「ハァ……ハァ、……っゲホ、ゲホッ」

 通路に上がった影は2つに分かれた。片一方は、大きく揺れながら苦しそうに咳込んでいる。もう片方は、全く動かない。

 影は2つとも、人間、のようである。

 咳込んでいた影の方が、多少落ち着いたのか、動かない影の方に近づいた。何やらもごもごと言葉を唱えたかと思うと、影の周り半径5メートル程が、松明でも照らしたように明るくなった。
 影の姿があらわになる。

 言葉を唱え明かりを点した影は、勇者カイリ。動かない影は、シンジこと魔王アズマであるようだ。

「シンジ……さん、」

 ぐったりと横たわる魔王アズマに近づいて、軽く肩を叩きながら呼びかけるカイリ。何度もそうするが反応がなく、カイリの目には焦りの色がにじむ。

「シンジさん、起きて……お願い、」

 顔を近づけて、呼吸を確認する。…息をしていない。カイリの目からついに涙がこぼれだす。

「そんな……嫌だ……、シンジさん、嘘ですよね……? 起きてよ、今度はちゃんと階段のぼるまで着いていくから……っ!」

 魔王アズマの胸に縋り付くように顔を伏せ、啜り泣くカイリ。
 しばらくそうしていたが、ふと、気づいたように顔を上げた。

「……動いてる、心臓。まだ生きてる……!」

 再度、呼びかける。だが、目を覚ます気配はない。呼吸も止まったままだ。

「……シンジさん、待って、確か……あれがあったはず」

 急いで自分の懐を探るカイリ。

「あった……よかった、まだ残ってる」

 大事そうに手に取った小さなビンには、銀色の小さな粒が2つ入っていた。

「まだ生きているなら、これで何とかなるはず……」

 銀色の粒は、いわゆる気つけ薬で、仮死状態の者が蘇る効能があり、高級品ではあるものの冒険者の間ではよく出回っているものだった。ちなみにカイリは持っていないが、更に上級品である金色の粒も存在し、それは仮死状態からの復活に加えて体力も完全回復するという、回復系のアイテムの中では最高級の品である。

「シンジさん、これを飲んで」

 カイリはその銀色の粒を魔王アズマの口に入れようと試みるが、唇は固く閉ざされてしまっており、無理に押し込めようとしてもコロコロとした銀色の粒は、プリッと弾き飛ばされてしまう。

「……お願い、シンジさん……飲んで下さい、……」

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