『魔王に就職』 勇者参上。《9》 「あ、あの、……俺さ、カイリと一緒には行けない。ここに残らなきゃいけないんだ。有り難いけど、ゴメン」 魔王であることは隠しつつ、本当のことを言う。 「え……どうして……ここにいたら危ないですよ、また襲われちゃいます!」 心から心配してくれているのが解り、俺の良心がチクリとする。 「その……、ひ、人が待ってるから……」 ……よし、ギリギリ嘘じゃないよな、これなら。 魔物たちを置いて城から逃げるわけにはいかないもんな、魔王様は。 「……待ってる……? 本当に?」 「本当、本当! この上の階で待ってるから、行かないと行けないんだ、」 ……そう、指輪も戻ったし、後は帰るだけ。上の階まで行けば、来た時のように安全なはずだ。 「……どんな人か解らないけど、こんな危険なところなのに迎えにも来ないで、ただシンジさんを待ってるなんて……」 あれ、何か怒らせちゃった……? 「……僕が階段の下まで送ります。このままじゃ心配で、僕1人でのん気に帰ることなんてできないよ」 うわー、それは有り難いなぁ。さすが勇者様、できたお方だ。 「いいの? ……何か悪いな、本当ありがとう、カイリ……」 もうお礼のしようがない。 「気にしないで下さい、これも何かの縁だと思えば、」 うーん、いい子だなぁ……。 「……でも、ちょっと問題があるんだよなぁ……」 独り言のようにぼそっとカイリがつぶやく。 「え、どうしたの、」 「うん……それが……、実は、この城は僕にはレベルが高すぎるんです。だから、安心して着いてきて、っていうわけにはいかないので。」 バツが悪そうに、眉を八の字にして苦笑する、カイリ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |