『魔王に就職』
勇者参上。《8》
「あーっ!? そそそそう、これっ!! え、ウソ何で!」
「1階で拾ったんだけど……、貴方のだったんですね、はい、どうぞ」
ニコニコと人好きのする明るい笑みを絶やさずに、渋る事なく指輪を俺に渡す。
「……はぁ〜、良かった……。
マジでありがとうございます、めっちゃ感謝しても足りないよ、カイリさん!」
顔の前で指輪を両手で握りしめ、拝むようにお礼を言う。
「どういたしまして。あの……さん付けは慣れてなくて照れるので、ただのカイリでいいですよ、多分貴方より僕の方が下だし」
「あ、そう……、じゃあ、ありがとう、カイリ。……年は、いくつなの?」
まぁ、言われてみれば、俺よりは若そうか。肌の張りと身に纏う爽やかさが違う。
「先月、ハタチになりました」
……わ、若っっっ!
てっきり24、5くらいだと思った。ずいぶん落ち着いてるっていうか、しっかりしてるんだな。
つーか、俺はハタチの男によしよししてもらっちゃったのか……笑えない。
「シンジさんは、おいくつ?」
「……27」
もうやがて28になるよ。あはははは。
「えっ! 見えない! もっと若いかと思ってた……」
ええ、普段からよく言われますとも。男としては、落ち着きがない・頼りないと言われてるみたいで微妙だ。
「さて……それじゃ、ひと先ず落ち着いたことだし、早いとここんな危険な場所からは脱出しますか」
カイリは、また懐をゴソゴソしだすと、紐が付いてペンダント状になっている、小さな土笛のようなものを取り出した。
「……?」
それをカイリが自らの首にかける様子を、ぼーっと見ている俺。
「シンジさんは、どこまで送っていけばいいのかな、家はどの辺ですか?」
……家はここです。なんて言えるはずがなく。
「その笛、何?」
無理くり話をそらしてみた。
「あ、珍しいよね、これ。友達にもらったんだけど、それぞれ決まったメロディを吹けば、色んな街に瞬間移動できる笛、です」
おぉ、便利グッズ。
どこか自慢げに、嬉しそうに話すカイリは、ちゃんと歳相応に見える。
「メロディわかる街にしか行けないけど、一応主要なところは大体覚えてるから、言ってみて?」
……困ったな、どうやって断ろう。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!