『魔王に就職』 勇者参上。《7》 「僕は勇者のカイリ。貴方の名前は?」 ……勇者って、あれか、あれだろ。RPGでいうと、プレイヤーキャラで、主人公で、仲間たちと力を合わせて、色々冒険して、最後には魔王とかやっつけてめでたしめでたし、の、あの勇者だろ! ここで俺が、魔王のアズマです、なんて名乗ったら、もしかして、討伐されちゃう? ど、どうしよう、えーと…… 「……し、真二です、よろしく」 とっさの偽名なども思い付かず、こちらではあまり使用しない下の名前を名乗っておいた。 「シンジさんですね、よろしく」 男はニコニコと、懐っこい邪気のない笑顔を浮かべ、スッと右手を差し出してきた。 「よ、よろしく……ハハ」 俺はといえば、魔王であることを隠してしまった後ろめたさに引きつる笑顔を、何とかごまかしつつ、その握手に応える。 「えーと、それで探し物は……」 あ、そうか、まだ言ってなかったっけ。……言っても大丈夫なのかな。まぁ間違えても正直に魔王の証の指輪、とは言えない。 「あ、あの……ゆ、指輪、なんだけど」 恐る恐る、ちらっと男をうかがう。 ……せっかく落ち着かせてもらったのに、また冷や汗だ。一難去ってまた一難。魔王、ピンチ。 「どんな指輪? 色は? 形は?」 ぐ……っ、そんな、特定しちゃって、バレやしないだろうか。 ああでも、一緒に探してもらうんだし、答えないと余計怪しいよな。 「えっと……地が金で、これくらいの大きさの赤い石が付いてるんだけど……」 指を丸め、石の大きさを示す。 「……ちょっと待って、……もしかして、……これ?」 そう言って、勇者カイリが懐をゴソゴソして取り出したのは、妖しく血の色に光る、紛れも無く、証の指輪だった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |