『魔王に就職』
勇者参上。《4》
あんなにビビってたのが馬鹿みたいに、3階まではそんな感じで、出会った魔物たちとひと言ふた言、言葉を交わしながら、スムーズに来れた。
俺もすっかりいつもの余裕を取り戻しながら、2階へ続く階段を探す。
「……グルルル……」
また魔物に出会った。
「よ。元気で頑張ってるか?」
俺は調子にのりすぎていたのかもしれない。
ヨダレ垂らして、完全に目がイッちゃってる、あきらかにヤバイタイプの魔物なのに、そういう魔物に朝礼で見慣れてしまっているのと、それまで出会った魔物たちが皆魔王に対して敬意を払ってくれたのとで、感覚が麻痺していた。
普通に話しかけ、肩をポンと叩いたのだ。
「……グルル……ニ、ニンゲン……!」
はっ、と過ちに気づいた時には、俺の視界はぐるりと回っていた。続く背中への衝撃につむった目を開くと、魔物の後ろに天井が見えた。……押し倒された、らしい。
「ハァ……ハァ……」
魔物の口からヨダレがポトポトと落ち、俺の喉を濡らす。
「ニンゲン……喰ウ……」
「! ヒ……ッ、」
魔物が、俺の喉に噛り付いた。
喰われる……!
「ハッ…ハッ、ン、グルルル……」
想像したような喉を食い破る痛みはやってこなかった。代わりに、ぬるぬるとした生あたたかい気持ち悪さが俺の首を襲う。
魔物は、まるで子ライオンが捕えた獲物をもてあそぶように、しきりに俺の喉を舐めたり、甘噛みしているのだ。
どうやら、チャンスだ。この、魔物が遊んでいる間は、わずかに時間がかせげてる。
……でも、だからって逃げられるわけじゃ、なかった。押さえられた両腕はビクリともしない。
そりゃそうだ。俺は普通の人間なんだから。RPGでいえば、レベル1とかでもなく、村人GかHくらいだ、多分。
「ング……ン、ハァ…グルル……」
ズルズル、ぴちゃぴちゃと、耳の裏まで舐められ、俺の首元は魔物の唾液だらけ。……死ぬほど気持ち悪い。……てゆーか、死ぬほど、……怖い。
……怖、い……。
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