『魔王に就職』
勇者参上。《3》
ダラダラと冷や汗を流しながら、何とか無事朝礼を終えた俺は、誰もいなくなった魔王の間で、指輪を探しはじめた。
「……ない、」
確かこの辺に転がっていったはず。
壁際の暗いすみの方を、一生懸命探すが、……ない。
「嘘だろ〜……何でだよ、」
本気で焦ってくる。もう、俺の馬鹿っ。
「あ、……?」
暗いし懐中電灯もないので、見えにくいところは手探りで床をくまなく調べていると、角の方に、小さな穴が開いているのを発見した。
「配水か通気孔……か?」
覗いてみても真っ暗で何も見えないが、微かに風が通っているのを感じる。
も、もしかして、この中に落ちたんじゃ……
「マジかよ……最悪……」
指輪が転がってった方向的に、可能性は大。
しかも多分これ、一階まで繋がってる。
無防備でか弱い人間の俺は、こんな危険な城の中を通って一階まで指輪を拾いには行けない。死んでしまう。
……でも指輪ないと、部屋に戻れない……
そうやって魔王の間の片隅で、ぐるぐる悩んでいること小一時間。
俺はひらめいた。
……まてよ、今日はナウラスが城の最強軍団(かどうかは知らないが)をドゥーガのところに連れていってるから、城内は手薄なんじゃないか?
そ、それに、一応魔王なんだし、朝礼とかでみんな俺の顔知ってるわけだから、堂々としておけば、そうそう襲われることはないんじゃないか。
……ひらめいたというよりは、もう、そう考えざるを得なかったというか。
大丈夫、大丈夫だと自分に言い聞かせて、一階まで指輪を取りに行く決心をした。
……ちゃちゃっと行って、指輪拾って、ぱっと戻ってくるだけさ。案ずるより産むが易し。……よし、行くぞ。
気合いを入れて、魔王の間の入口から外の廊下へ出た。
「わ、魔王様、どちらへ? ……こんなところへ出ていらっしゃるなんて、お珍しい」
「うわあっ!」
魔王の間の入口に立っていた見張りらしき魔物に声をかけられ、死ぬほどびっくりした。
「……大丈夫ですか」
俺に大声あげられて、向こうもびっくりしている。……えーと、えーと、
「わ、悪い、驚かせて。……いや、たまには城内見回りでもしよーかな〜……なんて」
わお。威厳のカケラもないな、俺。
「そうですか、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
それでも見張りの魔物は、深々と頭を下げて俺を見送ってくれた。
……あれ、何だ。普通に行けちゃいそうじゃん、これ。
ちょっと安心した俺は、少しだけ肩の力を抜いて、階下へと進んだ。
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