『魔王に就職』
危険な客人《6》
ナウラスと二人、応接間でしばらく待機していると、間もなく黒い影が入ってきた。
カツン、カツンと靴音をを鳴らして、入口から真っ直ぐ俺の方へ歩いてくる。
日没後の静かな最上階でやけに響く靴音に、思わず視線が足元へいく。
「どうもご無沙汰しております。ご機嫌麗しゅう、人間の魔王殿」
声をかけられて、目を足先からゆっくりと上に移動する。
ややもすれば股間の形がわかりそうなぴったりとした黒いパンツに、上は白いフリルのたっぷりついたクラシカルなブラウス、全身をすっぽり包む大きな黒いマント、といった、いかにもバンパイアらしい格好で奴は現れた。
「ふふ…そんな全身舐めるように見られたら、感じてしまう」
出だしから下ネタちっく…。隣でナウラスが静かにイラついているのが解る。
「キース殿…お元気そうで何より。…ところで本日はどういったご用件でしょうか」
「相変わらず美しいナウラス殿、今日はね、ちょっと朗報を持ってきたんだよ」
ナウラスの手を取って軽くほお擦りするキース。
うわ…く、空気が…ピリピリしている。
「あ、あの、とりあえず座ろうか?話は食べながら…」
お腹も空いたし。
応接間に用意されている、食事用のテーブルと椅子にキースを案内した。…移動中、俺の腰に手をまわしてくるもんだから、空気は微妙なまんま。ナウラスの鋭い視線が…俺に向けられてるわけじゃないけど、すごい痛い。
テーブルにつくと、小魔物たちが食事を運んでくる。白い清潔なクロスの上に、次々と並んでいく料理。今日はキースに合わせて洋食系。オシャレにテーブルキャンドルなんかも点いてたりする。
俺の隣にナウラス、向かい側にキースが座り、食事が始まった。
小魔物たちの美味しい料理に、ひと時は来客のある緊張も忘れて、幸せな気分になる。
「ふふ…魔王殿は本当に美味しそうに召し上がるのですね。こちらまで食事が楽しくなってしまう」
肉(…こっちの食材なので何の肉かはわからない。でも美味い)を慣れた手つきでナイフで切りながら、キースがニコリと微笑む。
あー、何か似たようなことナウラスにも言われたことある。そんなに顔に出てるかな…食いしん坊みたいでちょっと恥ずかしいかも。
…てか、こうして普通に会話している分には、キースもいい人だと思うんだけどな。
「だって本当に美味しいし。毎日こんな美味しい料理で、俺こっち来てから太っちゃったんじゃないかな〜アハハ」
ま、実際はカロリーも計算されてるみたいだから、そんなに増えたりはしてない。社交辞令というか、未だちょっとよろしくないキースとナウラスの間の空気を何とかしようと、わざと明るい声で返事をした。
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