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『魔王に就職』
先代魔王の命日《4》

 お祈りが終わり目を開けると、ナウラスの方はとっくに祈り終えていて、俺を見て優しく微笑んでいた。

「先代様と何をお話ししていたのですか?」

「いや、別に……ただの挨拶」

 祈る姿を人に見られるのって、何かちょっと恥ずかしいな。

「アズマ様にお会いできて、先代様もきっとお喜びでしょう。
 このろうそくが消えたら、戻りましょうね」

 というわけで、火が消えるまで俺達は祭壇の前で待つことになった。小さなろうそくだからすぐに溶けて消えてしまうだろうが、何もせずにじっと待っているのは何だか味気ない。

「……先代魔王って、どんな人だった?」

 今朝から少し気になってたことを聞いてみる。俺はすっかりこの生活に慣れて魔王を満喫しているが、考えてみれば、俺の前にも魔王がいたんだよな。どんな魔王で、城での生活はどんな感じだったんだろう。まさか俺みたいにナウラスに仕事任せっきりで、だらだら過ごしてたわけじゃないだろうし。

「……そうですね。一言でいえば、強いお方、でした」

 あぁ、やっぱり。そうだよな、魔王は強いもんだよな。

「力もそうですが、精神的にも。
 ここに来る途中、魔物の巣があったでしょう、その種族のご出身なので無口で物静かですが、いつも堂々としていて、弱い所を決して見せませんでした」

 カッコイイじゃん。てか、俺、全然正反対なんですけど。みんなにゴメンと言いたい……。

「立派な方だったんだね。何か……俺が後任でよかったのかな」

 先代も心配でおちおち寝てられないんじゃ……。

「何をおっしゃいます、アズマ様は充分魔王の役目をはたしていますよ」

 ありがとう、でもそれ全然信じられないんですけど。

「……先代が亡くなられた後、城がどんなに荒れていたかご存知ないので、そうお感じになるのも無理はありませんね。……今のように城が平和なのは、アズマ様がいらしてからなんですよ」

 ……え、そうなの?

「魔王がいないというのは、魔物たちにとっては、大変な不安なのです。アズマ様がそこにいるだけで、私達は心の平穏が保てるのです」

 本当? 俺、いるだけで役に立ってるのかな。

「それに私、人を見る目には自信があるのです。その私が選んでお迎えしたのですから、安心して、もっと自信を持って下さい」

 励まされた。俺は単純だから、そんなこと言うと本気にするぞ。

「ちなみに、なんで俺を選んだの?」

「……この方の下でなら、働いてもいいと、思ったからです。長い間一緒に居ることを想定したときに、この方なら悪くないと思いました」

 おおっと、不意打ち! そんな良い笑顔でそんな嬉しいこと言われたら、照れてしまうだろうが。
 ろうそくの明かりが暗くてよかった。絶対顔赤い。

「ありがと」

 小さく礼を言うと、ニッコリ微笑まれた。

 火が消えたので、またナウラスに手を引かれながら、洞窟を出る。
 曇り空でそんなに明るいわけではないが、暗い穴から出たばかりの目には眩しくて、うーんと伸びをしながら瞬きを繰り返した。

「アズマ様、疲れましたか?」

「ううん、全然。俺は何もしてないし」

「……よかった。やはり私の目に狂いはなかったようですね。実は、アズマ様が魔王に相応しくなければ、先代の霊気にあてられて多少体調が悪くなっていたかもしれませんでした」

「えっ……何それ怖いんだけど!」

「すみません。でも、何事もないと信じていましたので」

 おいおい。ニコッ、じゃねーよナウラス! 何、実験みたいなことしてくれちゃってんの。

 ……まぁでも、これって、先代魔王にも認められたってことかな、俺。
 洞窟の奥を振り返り、もう一度合わせた手にキラリと光る証の指輪が、いつもより指に馴染んでいる気がした。


<END>

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