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『魔王に就職』
先代魔王の命日《2》

 と、いうわけで、俺も一緒にギノン谷というところへ出かけることになった。部屋に戻り出かける準備をする。といっても、特に持っていく物もないし、靴を家履きから外履きに履き変えるだけだけど。
 そういえば、こっちに来て初の外出かも。ちょっとウキウキの俺だったが、ナウラスは少し緊張した面持ちだった。

「……ナウラス、大丈夫? やっぱ俺行かない方がいいかな?」

 自分で身を守れない俺を城の外に連れ出すのって、もしかして相当気疲れするのかも。

「いえ、大丈夫ですよ。……ですが念のため、強めの結界をかけさせて下さいね。……少し痺れますが、我慢して下さい」

 と、朝の結界魔法をかけるときのように、俺の両肩をつかむナウラス。俺は視線をそらし、ナウラスの後ろの壁を見る。……この前のあれがあってから、この時間は少し意識してしまう。イタズラするのは好きだが、されるのは苦手だ。とりあえず、もうこの時に目を合わせるのはやめにしている。
 ……と、思っていたが、

「!……ッあ……」

 宣言通り、強めの結界魔法で一瞬身体が熱く痺れ、ガクリと腰が抜けそうになり、思わず目の前のナウラスにしがみついてしまい、

「! すみません、大丈夫ですか? ……やはり少し強すぎましたか」

 慌てて支えてくれた彼と、バッチリ至近距離で目が合ってしまった。
 しかも、何、この体制で見つめ合うの、超気まずい。って、焦ってるの俺だけだし。

「大丈夫。ゴメン。ちょっとビックリしただけ」

 そそくさとナウラスから離れる。

 ちくしょう、ナウラスが美人なのが悪い!

 準備が終わった俺達は、中庭へ出た。
 ……どうやって行くんだろう。階段を下りないでここへ来たってことは玄関から出るわけじゃないんだな。
 そういえば、この世界に来た時もどうやって来たんだっけ?

 思い出そうとしていると、ナウラスが地面に魔法陣を描きだした。
 あ、そうか魔法陣だった。この中に立ってワープするんだ。

「アズマ様、どうぞこちらへ」

 魔法陣が出来たのか、ナウラスが中から俺を呼んだ。
 半径1メートルも無い円の中に2人も入ると、ちょっと狭い。向き合うのも変なので、俺はナウラスを背にして魔法陣の内に立った。

「移動中に周りを見ると、酔ってしまいますよ」

 目の前に白い布がフワリとかざされた。どうやらナウラスがマントで目隠ししてくれてるらしい。後ろから、右肩を優しく掴まれ、頭上にはマントをかざしたナウラスの左手が見える。ぴったりくっついてるわけじゃないけど、包まれるような感じで、背中が気配を感じる距離。
 後ろにいるのがナウラスじゃなければキモくて鳥肌が立つ。

「……着きました」

「えっ、もう?」

 何か、初めてこっちの世界来たときにも同じようなこと言ってたな、俺。
 魔法陣での移動って、立ってるだけでスピードも重力も感じないから、イマイチ移動した実感がないんだよな。

「ここから、少し歩きます。足元にお気をつけ下さい」

 と言うと、ナウラスは先にたって歩きだした。

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