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藤色の銀細工(テニスの王子様×戦国BASARA 長編)
3
精市side


彼女を初めて見た時のことは今でも覚えている。その美しい顔に薄く微笑みを纏ってこちらを見た瞳を俺が記憶からなくすことはきっと一生ないであろう。

母に紹介したい人がいると言われたのは3日前の話である。最近引っ越して来たばかりで知り合いも多くはないはずなのにと不思議に思ったが、どうやら相手は偶然にもご近所さんとなった母の学生時代の親友とその娘なのだそうだ。

元来人見知りである俺は友人が少ない。その希少な友人も引っ越しで離れてしまった。そんな中知らない子と話さなければならないなんて、今から憂鬱である。俺は拗ねたまま庭の花に水を遣り続けた。

彼女たちが訪ねてくる当日。俺の機嫌はいまだ降下中である。これから名前ちゃん、というらしい女の子と話さなければならないのである。嫌でたまらないと言ったようにソファの上で膝を抱える。
すると突然インターホンが鳴り響いた。…どうやら来てしまったよである。もう諦めるしかない。

少しして複数の足音がこちらにむかってきた。ドアが開き、母の声がした。

「精市、言っていた名前ちゃんよ。ご挨拶なさい。名前ちゃん、この子が息子の精市よ。」

しかたなくその名前ちゃんとやらの方に目をやった。


世界中の時が止まった。

母の後から出てきた彼女の薄い紫色の瞳に、一瞬で心を奪われた。

「ゆ、ゆきむらせーいちです。」

そう言って慌てて頭を下げた。
吃ってしまった…。恥ずかしい…。
俺は下を向いて顔を赤くした。

「おはつにおめにかかる。苗字名前という。よろしくたのむ。」

鈴の音を転がすような声とはよく言ったものである。まさにそのような表現が正しいような、何とも甘美な声を彼女は持っていた。
ぱっと顔を上げると、彼女と目が合った。
恥ずかしさからまた顔を俯かせる。

そうこうしている間に母同士も挨拶を終えたらしく、2人で話すからと言ってダイニングでお茶を飲み始めてしまった。

…名前ちゃんと二人きりだ。何を話せばいいのか分からない。

「精市くん」

「っ! な、なに…?」

そんなことを考えていると彼女から話しかけてきた。

「精市くんはおはながすきなのか?にわにたくさんさいていた。」

「!うっ、うん!おれ、はなだいすきなんだ!」

まさか彼女が花の話題を出してくるなんて。花はもちろん大好きである。自分で育てた花は自慢であるし、綺麗な花は見ているだけで楽しい。

「名前ちゃん!おれのはなをみてよ!すごくきれいにさいてるんだ!」

名前ちゃんにも見せたくて、俺は名前ちゃんの手をとって庭に駆け出した。

名前ちゃんに花を見せながら俺は自慢の花達を紹介していく。名前ちゃんは聞き上手なのか絶妙なタイミングで相槌を打ってくれるため、俺にしては珍しくペラペラと話してしまう。たまに知っている花について喋ってくれる彼女は自分と同じく花が好きなのかもしれない。ちなみに話しているうちに分かったことだが彼女と俺はどうやら同じ幼稚園に通うらしい。

「名前ちゃんはすきなはなってある?」

ふと聞いてみた。

「ああ。藤というはななのだが…。しってるか?」

「藤?うーん…。わからないや。ずかんにのってるかな?」

藤という花は家の庭には咲いていない。お母さんに連れて行ってもらったお花屋さんにもあった気はしない。 もしかしたらあんまり咲いていない花なのかもしれない。

「多分のっている。とてもうつくしいはなだ。よければみてみてくれ。」

「うん!名前ちゃんがいうんだからきっとすごくきれいなんだね!みてみたいなあ、藤!」

「ああ、きっと精市くんもきにいってくれるだろう。藤のきせつになったらともにみにいこうか。」

「…っ!うんっ!」

…嬉しい。名前ちゃんが、いっしょに見に行こうって。名前ちゃんといっしょに出かけて藤の花を見れる。ああ、いつの季節とも知らないが早く藤の季節とやらが来ないだろうか。

「精市ー!名前ちゃーん!そろそろおやつにしましょうー?」

母に呼ばれて家の中に入る。名前ちゃんの手を握って。
おやつを食べている時ももちろん彼女から離れることはしない。見つめればこちらを向いて笑い返してくれるし、ぎゅっと抱きつけば頭を撫でてくれる。それが嬉しくて何度も何度もやった。お母さん達には精市くんはよっぽど名前ちゃんが好きになったのねなんて笑われていたが、そんな単純に形容できる感情でもない気がする。
彼女の帰り際には泣いて駄々をこねた。近所だし幼稚園も同じなのだから毎日会えると約束してくれたけど、俺はずっと名前ちゃんといたいのに。

渋々お別れをしてから、すぐに花の図鑑を開いた。
俺はこの時名前ちゃんはきっと藤のお姫様なんだろうと思った。だって彼女の瞳は藤の花を映した湖のようだったもの。
そんなことを思って口角が上がる。
欲しい。彼女が欲しい。その藤の宿る瞳に俺だけが映ればいいのに。

…ああ、彼女が、愛しい。

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