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藤色の銀細工(テニスの王子様×戦国BASARA 長編)
6
side弦一郎

「っんだよテメェ!餓鬼の分際でよぉ!あ゛あ゛!?」

その日は朝からついていなかった。朝食に鮭を食べれば骨を喉につまらせ、蛇口を捻れば逆側に捻ってしまいびしょびしょになり、歩けば黒猫が前を横切った。今日は厄日なのか。たるんでしまいそうな気を引き締めつつ向こう側のコートに移動しようとするとドンと人がぶつかってきた。そちらを見ると小学校高学年くらいの男子が3人、ニヤニヤとこちらを眺めている。

「おいガキ〜、ぶつかったんだから謝れよォ〜」

「そうそう。あ〜いってぇ!骨折れたかもなぁ!」

「土下座したらゆるしてくれんじゃねぇ?」

そう言ってギャハギャハと下品に笑うが生憎ぶつかったのはそっちだ。

「む。貴様からぶつかってきたのだろう。謝るとしたらそちらだ。」

そういうと奴らは腹を立てたのか俺の胸倉を掴み上げた。

「コノヤロウ!ガキの癖にナマイキなんだよ!この間の試合の時だってよォ、どうせイカサマでもして買ったんだろぉ!?こっちがてかげんしてやってたのわかんねぇか!?」

この相手は俺が1週間ほど前に試合をして勝った相手だ。技術も体力も無く、相手にならなかったのを覚えている。もちろん俺は真面目に戦ったのだが俺が年下ということで目をつけられたらしい。

「俺は本気で戦った迄だ。俺との勝負に勝てなかったことを恨むのはお門違いだ。悔しいのならば鍛錬を積みテニスで勝てばいい。」

「っ!てんめぇぇぇ!!!」

がっと拳を振りかざされた。いくら祖父と剣道をやっているとはいえ自分より数倍体の大きな相手に手も足も出ない。殴られるのを覚悟して目を閉じかけた時、視界にふわりと黒い影が映った。そして次の瞬間には自分の体は解放され、自分を掴んでいた奴は目の前の相手によって伏せられていた。
呆然と目の前の相手を見るとそこでまた驚いた。相手は自分と同じくらいの女子だった。黒いワンピースと銀色の髪がふわりと揺れた。

「なっなんだお前ぇ!何すんだ!!!」
「おい!お前の殴られてぇのかぁ!?」

「何を言っている。先に手を出したのはそちらのようであったが?私は唯乱暴者に傷つけられそうになった少年を助けただけだ。」

「あ゛ぁ!?チビのガキじゃねぇか!しかも女だぜ?」
「ってんめぇ、ブン殴ってやる!!!」

年上の男相手にも微動だにせず鈴の音を転がすような声で相手に言い返す。逆上したのであろう相手が彼女を殴ろうと手を伸ばす。が、彼女は何ともないようにするりと避けては無駄のない動きで相手を仕留める。
ものの数秒で片付けた相手は恐怖のためか痛みのためか涙目である。
騒ぎを聞きつけた先生が急いでやって来た。この状況に驚いたようだが、とりあえずと小学生と助けてくれた女子と一緒に連れていかれた。
幸い周りに人が多かったため彼らが悪いとの証言が多数あり、怪我の治療を受けた後はすぐに解放された。
彼女に礼を言わなければ。そういえば彼女を1度も見ていなかったことに気がついて、隣に目をやった瞬間時が止まったかのように感じた。
真っ白い肌にツンとした小さな鼻と桜色の唇がついていた。それに長いさらさらの銀色の髪をしていた。なにより印象的だったのは瞳だ。長いまつげに覆われたつり目がちの大きな瞳は昨年うちの庭に咲いていた藤の花のような色をしていた。
思わず見とれているとパチリと目が合った。慌てて礼を言う。

「…っ!あ、そ、その…、助けてくれて感謝する。俺は真田弦一郎という。名を聞いてもいいか?」

「ああ、私は苗字名前だ。例には及ばない。当然のことをした迄だからな。しかし何があったのか聞いてもいいか?」

「ああ。あ奴等はテニスの試合で俺に負けたのだ。それで恨まれてな。年下のものに負けたのがよほど悔しかったようだが、それならば鍛錬を積みテニスで勝てばいいと言ったら腹を立てたようだ。」

「なるほど。」

苗字名前という彼女に事の
経緯を説明すると彼女納得したというふうに答えた。

「いや、しかし女子だというのにあの身のこなしは凄いな!俺も祖父と居合いをするが先程はどうにもできなかった。情けないことだ。」

「そんなことは無い。年上の相手に言い返したのだろう。立派だと思うぞ。それにテニスで勝ったということはテニス強いのだろう?機会があれば見てみたいものだ。」

思いがけず褒められて体の温度が上がりどうしたらいいか分からなくなってしまった。

「っ、あ、いや、そ…「名前!」っ!」

意味のわからない言葉をひたすら発していると聞いたことのある声が彼女の名を読んだ。

「む、すまない精市。色々あってな、先程まで医務室にいたのだ。」

「さっき先生に聞いたよ。まったく、怪我したらどうするんだい?心配したよ。とにかく無事でよかった…ん?真田?どうして名前と一緒にいるんだい?」

俺に気が付いた幸村が不思議そうに尋ねてくる。彼女は幸村の友人だったのか。普段からは考えられないほど幸村が慌てている。

「む、幸村か。いや、今回の事は此方が原因でな…。」

そう言って先程のことを話した。

「…なるほどね。本当に弱いだけの馬鹿は困るね。俺も最近勝った中学生にこの間睨まれてね。これでもし名前に何かあったらどうしてくれたんだろうね?」

…幸村が時折黒く感じるのは俺だけだろうか?

「…まぁいいか。さあ、名前もう時間だ。帰ろう。今日は俺の家でご飯だよ。真田もお大事に。また明日。」

「ああ、そうだったな。すぐに用意しよう。…あ、そうだ。弦!」

帰るのだろうかと彼らを見ていると突然彼女にそう呼ばれた。

「…!?げ、弦とは俺のことか?」

思わず聞き返した。

「ああ、仲の良いものは下の名で呼び合うそうだ。私はもっと仲良くなりたいと思ったので呼んでみたのだが…。もちろん私のことも名前で呼んでもらって構わないが…駄目だろうか?」

仲良くなりたいなどと面と向かって言われたのは初めてだ。赤くなる頬を必死に抑えて答える。

「そっ、そういうことなら仕方あるまい…。名前!」

そう言うと嬉しそうに微笑みかけてきた。

「うむ。弦!また!」

「ああ、またな。」

幸村に手を引かれながら笑顔でこちらに手を振る彼女に俺も手を振り返す。

彼らが見えなくなるまで見つめ続けているといつの間にか迎えが来ていたようで慌てて支度をした。先生から話を聞いて心配してくれる母に無事なことを話すとほっとしたような表情で頭を撫でてくれた。
名前のことも聞いていたらしく仲良くなったと言うと名前ちゃんさえ良ければ今度うちに連れていらっしゃいと嬉しそうに答えた。生粋の可愛らしいものの好きな祖母と母は人形のような名前を見たらさぞ喜ぶことだろう。年上の男を倒した強さを知ったら祖父も彼女を気に入るに違いない。
母と手をつないで歩く帰り道、ふと空を見上げると大きな月がこちらに微笑んでいるかのように佇んでいた。今日はどうやら厄日ではなかったようだ。

翌日テニスコートに行くと幸村に弦一郎と呼ばれたので俺も精市と呼び返した。ふたりで微妙な顔をして笑ったのもなかなかにいい思い出だ。

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あきゅろす。
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