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僕の灯を君に、十六夜。
第十五夜∞切り刻む


ザクッ。


奇妙な金属音が、小さな部屋に響き渡る。
小さな賃貸アパートの一角。
俺と彼女が二人で同棲しているここには、俺以外彼女しか居ないはずだ。
何度も繰り返されるその音に、俺は妙な胸騒ぎを覚え部屋に駆け込んだ。


ジョキン。


窓から差し込む月明かりの下、君は燦燦と光を浴び
窓辺に腰を下ろして居た。
その姿がまるで死神にも天使にも見え、
妙な胸騒ぎはさらに高鳴る。


「な…何してんだよ?」


最初は暗くてよくは見えなかった。
だが月明かりに目が慣れてくると、ソレがだんだんと明らかになる。


手には銀色に輝く大きなハサミ。
そして君の長い黒髪が辺りに散乱している。


「髪…切ってみた…」


一体どうしたのかワケも解からず、俺は呆然としたままだ。
君の眼が一瞬、冷たい青い瞳に見えたのは月明かりのせいだろうか…?
ワンピースの袖から覗かせる華奢な腕は、そんなにも細かっただろうか…?


はっと我に返った時にはすでに君を抱き締めて居た。
「何かあったの?」
そう問いただすも、中々返答は返って来ない。
心配と不安で、胸が張り裂けそうになる中、うわずった震え声が耳元で囁いた。


「寂しくて…髪切ってみたら、気付いてくれるかな…って…」


その言葉を聞いた瞬間、俺はさらにきつく抱き締めた。
一年と半年。
俺らは確かに隣に居る存在で、時間だけが刻々と時を刻む。
そんな中、俺はだんだんと一緒にいるありがたさが
解からなくなっていったかも知れない。
優しくして居なかったかも知れない。
思いやりが…なかったかも…。


「ごめん…」


君にそんな言葉を言わせたいワケない。
もっと…もっと違う言葉を。
笑い声を…


「もっと優しくするから…」


切り刻まれた痛ましい君の黒髪を見つめる。
「もう…切っちゃ駄目。俺、ほんと好きだから…」
冷たかった君の眼が少しだけ輝いたのを感じ、
短くなった髪にそっと手を当てて、キスする。


そして俺らは果てしない快感の渦へと引きずり込まれるのだ。
久しぶりの君の感触に、幸福を覚えながら…
涙が溢れ出す、ぬくもりを感じながら…


「結婚しよ」

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あきゅろす。
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