僕の灯を君に、十六夜。
第十四夜∞ママ
「んー…まま……」
まだ薄暗い、冬の夜明け前。
隣の家で飼われている犬の鳴き声が煩くて、
あたしは目を覚ましたのだ。
毛布から腕を出して起き上がろうとしたのだが、やめた。
冬の夜の肌寒い空気が一瞬腕に触れたからだ。
そしてあたしはまた、君の傍らに潜り込む。
穏やかな寝息を立てて、彼は眠っていた。
…その姿が、どうしようもなく愛しく想えたのは。
肌寒いその空気から守るようにして、毛布をかけ直した後、
あたしは彼を腕の中に抱き抱えた。
君のスカルプチャー・オムの香水の匂いが鼻孔を刺す。
少し伸びた彼の柔らかい髪に触れ、顔を埋めた、
まさにその時だったのだ。
「ママぁ…」
彼はそう言って、あたしに腕を回しきつく抱く。
訳も解からぬまま、反射的に彼の頭を撫でる。
それでも彼は何度も「ママ…」と呟くのだった。
裸の胸に、液体が流れ落ちるのが解かる。
涙だ。
嫌な夢でも見てるの…?
彼は、母親が病気で入院しているのだ。
子供の頃からずっと…。
母性が強いあたしは、彼の無意識の甘え声に
只いとおしく想う事しか出来ずに…。
「あたしがママになるよ…」
そっと呟くあたしの声と、
彼の流す涙が激しく溢れ出すのはほぼ同時だった…。
さらにきつく、抱いた。
じゃれ合う子猫の戯言だろうか?
それでもあたしは、君を守りたい。
愛しい君を、一生守りたいよ…
そう想った、冬の夜。
そう誓った、明けの星屑。
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