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僕の灯を君に、十六夜。
第十三夜∞吊られた男
何もかも知ってしまった夜に
赤ひ靴を履ひたあの子は
涙を流して居ります。


「寒ひのですか?」と問ひますと、
その子は只言ふのです。


「弟が死にました。」


そんな事を言ふものですから不安になって、
わたくしはその少女の家へ行つてみますと、案の定
弟が首を吊って息絶えて居りました。


これは大変だ、とばかりに少女に問ひます。


「何故死んで居るのです、こんな小さなお子が」


少女は目を背けながら躊躇して居りましたが、やがて言ひました。


「お父様が殺しました。」


小さなあの子は
何もかも知ってしまった夜に。


少女は続けて言ひました。
「お父様は私を犯して居る処を弟に観られ、こうなりました。」


何もかも知ってしまった夜に、
無残に残された性欲と小さな死体。


赤い靴のあの子は涙を流して居りました。
知らなければ夢見たものも叶う夜でしたのに
残念でなりません。


今度はわたくしが父親になりませう。
さあ、こちらへおいで。


そして
未だ何も知らない夜に、
赤い靴のあの子は男の後をついて行きます。


知って居れば夢見たものも叶う夜でしたのに…


吊るされた死体が微かに笑ったかの様に見へました。
どうかあの子をお守りください。


そして口笛が、どこからともなく聴こへてきます。

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あきゅろす。
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