〜宛メメント
ゼファーχ
薄暗い路地裏にはカラースプレーで描かれたパンキッシュな絵文字の数々の他に、
薬中か族が荒らしたであろうコンクリートの破片が幾つも転がっている。
クレドの400CCバイク、ゼファーχはきちんと隅に置かれていた。
黒々と光沢を放つそれは
この街の寂れた漆黒の闇に住まうかの如く
威風堂々としている。
あたしはそれに堪らない孤独を感じ、
同じ匂いを覚えた。
「この単車、あんたの?」
「大丈夫。無免じゃないから」
黒蝶のタトゥーが貼ってある紫のメットをあたしに手渡す刹那、
指が触れ合ったなんて事は気にも留めずに
クレドはあたしの全身に目を走らせ、ふと思い付いたように次の言葉を発す。
「あ…そのカッコじゃ寒いっしょ?」
「え…」
気付けばバイトの衣装のまま、階段を駆け上り外へと来てしまっていた。
「ハイ。これ着てろよ」
それを見かねてなのか、今仕方まで着ていたクレドの半袖パーカを無粋にあたしの肩へかける。
クレドは黒いボーイズタンク一枚になって、
晒された腕や肩や背中の筋肉を見せ付けていた。
「夏でもバイクは寒いからな」
ゼファーχのマシン的ボディーライン。
改造されたマフラー音が漆黒に孤高と鳴り響く。
あたしはクレドの後ろにまたがり、腰に手を回す。
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