月三物語
【探偵】
「止めろ! 涼――!!! 」
遠く……遥か遠くに……声が聴こえる。
不思議だった――包丁が目の前ほんの1ミリの所で止まっている。
私が《力》を使い時間を止めたと判ったのは、浩司に揺さぶられ意識がハッキリとした時だった。
「涼! 起きるんだ! 逝ってはいけない! 竜も居るんだぞ! 」
「……りゅう……でも、わたしは……」
「涼は人殺しなんかじゃない! 絶対に! 」
竜の声が……唇が震え熱いものが込み上げて来る。
「……竜、竜なの?……」
「そうだよ、涼……僕だ! 愛してるよ涼……」
きつく抱き締められ現実に戻る。生きていた! 生きて私のところへ……
*―*―*
「赤月、後は俺に任せてくれ」
私は頷き、月島を見送った。アイツは言った、最後に涼の力になれて良かったと。
あの、竜を刺し涼に狂気をもたらした女――小夜は、気がふれてしまっていた。目の前で有り得ないものを見せられたために。
私は思う――この方が小夜にとって良かったのだと。でなければ、何度でも復讐を止めないだろう。
私にとって最後の事件は、こうして幕を閉じた――
「章吾、本当に探偵をやめるつもりか? 」
「良いんだよ、兄さん。本当に良いんだ……」
逃げてはいけないと、友たちに教えられた。私は私しか出来ない事をしよう……
人の痛みに耳を塞がず、共に苦しもう……
後は……始君……君に……任せたよ。
君なら、立派な探偵に必ずなれるさ――
なにしろ、私が見込んだ人材なんだから。
「君は、探偵になるべきだ! 」
「はあ? アンタ何言ってんの? 」
あの日……君を、一目見て分かり理解した。
私と同じだと……手探りで自分の生きる道を模索している。昔の自分を見てる様だったよ。
だから、君に夢を託す――
必ず君は、立派な探偵になれる筈だから。
未来の名探偵へ――
過去の、名探偵より――
[前頁][次頁]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!