月三物語 【再生】 目覚めて直ぐに私はリハビリしたいと言った。いつまでも、ここで寝てる訳にはいかないと。あの男の子―始くんに言って担当の先生とも話し、一日も早く回復したいと言ったのだ。 「でもね美月さん、あなたは七年もの間、寝たきりだったのですから……無理をしないでゆっくりと回復した方が……」 「先生、私は七年ものあいだ人生を無駄に過ごしたんです。これ以上、何をゆっくりしろと? 」 先生は深くため息をつき、決して無理をしないという約束でリハビリを受けるのを許可してくれた。 そして普通だったら、半年掛るところを四ヶ月で歩けるまでに回復した。 「始くん、お願いがあるんだけど……二人を呼んで貰えないかな? 」 始くんは私を見てたった一言「はい」と言った。 その日の昼間は浩司に、夕方には竜と会うことにして貰った。 「涼、元気そうだな」 浩司が両手に抱えきれない程の花束を持って現れた。そう言えば看護婦さんが私の意識のない時、毎日花束を持って来てくれたと話してくれたっけ。 「浩司、ありがとう。ずっと見守っててくれたんだってね」 浩司は、どこか哀しげに笑って、私の手を握り言った。 「涼は、どうしたい? 」 ずっと、一緒に居たからって、恩を売るような事はしたくない。と浩司は言う。どちらを選らんでも良いと、涼の幸せだけが願いだと…… 「浩司……」 *** 「涼! 大丈夫なのか? 」 竜が呼び出されて直ぐ来たのだろう。会社の制服のまま、慌てて入ってきた。途中で看護婦さんに怒られる声が聴こえてきた。 「大丈夫よ竜……元気になったから。それより、仕事終わったの? 途中で帰って来たんじゃないよね? 」 笑いながら言うと、竜はホッとした顔して笑いだした。 「だって涼が急に呼び出したから、何かあったのかと……涼、どうした? 」 「竜、話があるんだ……」 *** 「良いんですか? 」 始くんが私に聞いた。私は言った。「良いのよ……これで」 次の日――私は退院した。 「美月さん、無理はしないで下さいね。何かあったら直ぐに来るのですよ」 私は笑って先生に言った。 「先生、私は美月ではありません。ただの『涼』です」 そして、一歩を踏み出した。新しい人生を生きるために―― [前頁][次頁] [戻る] |