月三物語
ページ16
章吾はうつ向いたまま、黙っている。俺はついうっかり口を滑らせた自分に腹が立ち、苛々して歩いていた。
「章吾……? ワリイ……」
不意に顔を上げた章吾は真っ赤な顔をして俺を真っ直ぐ見て言った。
「青木……あのなあ……」
「嘘だって、冗談だよ……」
慌てて、取り消そうとした時、
「月島から聞いているんだろう……? 私があの……能力者だって事を……」
うがあ〜〜忘れてた! 筒抜けだったんだ! もう、最悪だ……
「青木……賭けをしないか? 」
章吾の提案はとんでも無いものだった。章吾が俺に暗示をかけると云うもので……俺が章吾を忘れなければ俺の勝ち、忘れてしまった場合は……
「私の事は諦めて貰う……と言っても忘れれば自然とそうなるね」
「じゃあ、覚えていたら? 俺と付き合ってくれるのか? 」
章吾は頷いた……そして、暗示を掛ける為に目を閉じろと言う。俺は素直に目を閉じ待った……
サラッと頬にくすぐったい感触がしたかと思うと唇に温かいものが触れてきた。
薄く目を開けると章吾の綺麗な顔が直ぐ目の前――
『もしかして、き、キスしてる?あ……やっぱ綺麗だな……』
そ〜っと、章吾の顔を包んで、キスを返す。
我慢出来ずに押し倒すと、章吾は両手で押し返した。
「……章吾……俺は……」
「駄目だよ……賭けに勝ってから……でも……」
『私も……愛してる……』
耳元で囁いた……
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