拝み屋 西条望の心霊ファイル @ その部屋の中には、禍まがしい気が満ちていた…… 一歩足を踏み入れたおれが、途端に回れ右をして帰りたくなる程に…… 覚悟をきめて、依頼した両親に向き直り一人で入らせてくれと頼むと、どこかホッとしたようにその場から離れた。 部屋の主は、おれが中に入った途端、唸り声とも叫声とも、つかない奇妙な声を発する。 『…なにしに……くるな…おまえに…わたし…祓え…る…』 おれは、経を唱えながら近付いて行く…… ================ 「終わりました。もう大丈夫ですよ…こちらに来て娘さんに会って下さい。」 両親が部屋に入り、涙の再会?を交している間、おれは今にも崩れ堕ちそうな体を必死になって支えて居た。 「本当にありがとうございました!何とお礼を言ったらいいか……」 しきりに頭を下げる親子に営業スマイルを見せその家を出た。 表に停めてあった車に乗り込むなり、口を押さえて吐気と闘う。 「情けないねぇ、お前も未だまだ修行が足りないよ。」 苦しんでるおれに、無情にも掛けられた声の主に、 「うるせぇ…ババア、早く何とかしろってんだ。」 言葉ほど威勢のよく無い、弱々しい声で応酬する。 「仕方ないね、家まで持ちそうも無さそうだ。これに懲りたら、 もう一人でやろうなんて考えないこった。」 激しく後悔をしていたが、 生来の気性のため謝るなんて事はしない。 ひたすら耐え忍ぶおれ…… 本日、初めて一人だけで除霊を試みたおれ、西条望(のぞむ)が初めて負けを認めた日だった―― [次頁] [戻る] |