僕の痛みを君は知らない
7
すると、部屋の方向から銃声が襲ってきた。
おれは彼に引っ張られてホールに飛び込んだ。
いったいどこからやって来るのか。敵の正体はなんなんだ?
彼に守られながらも混乱する。
彼はいったい、何者なのだろう。
そのとき、重たい金属の衝突音と聞き慣れたビームランチャーの発射音がした。それに続いて爆音が響く。
それを聞いた彼は、ほっと表情を緩めた。
銃声が止んだ。どうやらむこうは撤退していったらしい。
「間に合ったか」
彼は安心した笑顔で立ち上がって、廊下の向こうを見つめる。
やがて、叫ぶような声が彼を呼びながら近付いてきた。
「雅さん!」
破壊された部屋から土井垣が現れた。
「おう。助かった」
駆け寄る土井垣を笑顔で迎える。強い信頼関係がそこに見えた。
「無事ですか?」
「ああ」
「お? 野村も一緒だったのか……。とんだ邪魔が入りましたね」
土井垣はおれを見つけると、ニヤニヤと笑って彼を冷やかした。
「まったくだ。せっかくの夜がだいなしになったよ」
彼は苦笑いを浮かべて、おれに手を差し伸べた。
「立てるか?」
「はい」
差し出された手をとって立ち上がる。
けれど、なんだか膝に力が入らない。
そんなおれを彼はさりげなく支えて、土井垣の案内について行った。
破壊された室内に戻ると、破壊された壁の向こうから新型のリーンフォースが覗いていた。
こんなモノを街なかに持ち出してきたのか?
まさかと疑っていると、コックピットのハッチが開いて葵が現れた。
「大丈夫ですかあ?」
「ありがとう。藤峰少尉。助かったよ」
彼が葵に礼を言う。彼女は照れくさそうに笑った。
「――助かったがな。どうして彼女を巻き込む?」
「いやあ……。葵の夜間飛行訓練見物してたんだ。それでエマージェンシーコールだったから、つい」
土井垣は珍しく困っていた。こんなしおらしい態度を見るのは初めてだ。
「なんとか、言い訳しておくから」
「頼んだぞ」
彼は土井垣の肩を叩いて信頼をみせる。
「篤士。頼みついでだ。統合本部まで連れていってくれ」
「おやすい御用」
土井垣は笑って、コックピットに戻ってハッチを閉じた。
そして、ガイアスのアームが伸びて、おれたちの前に差し出された。
「手の中に乗ってください」
葵がおれたちを促してきた。彼がガイアスの『手』に乗り込み、残されたおれを引っ張りあげた。
『いいですか?』
『指』がゆっくりと曲げられ、おれたちを保護する。
そして、室内からアームを引き出すと、そのまま夜空に舞い上がった。
こんな冬の空を、セーター一枚でフライトするのは初めてだ。さすがに風が冷たい。
けれど、本物の全天空スクリーンは大迫力で、輝く宝石のような街の夜景は、思わずため息がこぼれるほど綺麗だ。
不意に、暖かい温もりがおれを包んだ。
彼がコートの懐におれを招き入れて、穏やかな視線を向けてくる。
「平気か?」
気遣う態度が嬉しくて。でも、なんとなく悔しい。
おれは何も答えられなかったし、何も訊けなかった。
彼の事を全て知っているわけではない。全てを知らされてはいない。
愛玩物のような立場のおれは、結局は守られるだけの存在だったのだと気付いてしまった。
同じ男でありながら、彼とは同等ではない。
恋人でありながら、信頼されているわけではない。
彼のそばにいると、コンプレックスが刺激される。
暖かい胸に抱きしめられているのに、寂しくて。
やりきれない感情がおれを満たしていた。
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