楽園の紛糾
love me2
ホテル街を歩いていると複数のカップルとすれ違う。くまなく探したはずなのにそこに橘の姿は見つからなくて途方に暮れてしまう。
『デートクラブの客を横取りして荒稼ぎしている新顔がいる』
まるで早乙女のような奴がいるんだなと思いつつ、さして気にも留めていなかった。
一緒に街に出たのは二度。
それ以降、橘はつかまらなくなった。
それなりに楽しんでいたように見えたが、やはり合わなくて止めたのかと思っていた矢先に例の噂を街で耳にした。
それが橘の事だったのかと思うと胸が痛む。
そうでないことを祈りながら通りを歩いていると、路地裏からただならぬ剣幕の声が聞こえてきた。
嫌な予感がして路地に入る。そして、更にその路地裏を覗いて見ると、奥に見覚えのある人物が佇んでいた。
視線の先には、決して性質がいいとは思えない数人の輩と睨み合っている橘がいた。
西奈は、あまりにも予想外の場面に遭遇して、その様子を呆然と眺めてしまった。
「――どこのシマ荒らしとる思うとんのじゃ」
「そのベッピンなツラが、二度と売りモンにならなくなるぞ」
もう既に何らかの危害を加えられたのだろうか。橘の頬に殴られたような痣ができている。
そんな因縁をつけられても、橘は唇の端をもちあげて嘲笑を浮かべた。
「おまえたちには関係ないだろ。……俺は別に商売しているわけじゃない」
鋭い視線が冷たい。あまり親しくなかったときの橘の印象が記憶から蘇る。西奈は、誰も寄せ付けない孤高な存在だった時の彼の姿を思い出した。
明らかに挑発的な橘の態度に男たちはいきり立った。
「いい度胸だなっ!」
ひとりの男が襟元を掴んで殴りかかる。
『やられる』
そう思った瞬間、西奈は思わず前に飛び出した。
気付いたときには打ち込まれた拳を掴んでいて、橘を押さえ付けていた男を殴り倒していた。
「暴力はいけないっっ!」
殴られた男の仲間が西奈を茫然として見つめて、そしてすぐ憤然と向かった。
「なんだテメーはっっ!」
突然視界を遮った広い背中の出現に、橘も唖然とする。
「それでは、そういう事なので」
「――っざけんなコラっっ!」
西奈は敬礼を残して、橘の手を掴んで強引に引っ張って走り出した。
追いかけてきた男たちを撒いて裏路地を走り抜けたふたりは、街道に出てタクシーに乗り込んで難を逃れた。
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