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歌音様より
繋がり



ある日の任務帰り。
サクラと歩く帰り道。


おそらく僕に言うはずであろう言葉をいつまでたっても彼女は言ってくれなかった。
だから、しょうがなく自分で聞いてみたんだ。




「サクラ、君は何か忘れてないかな?」


「何のこと?」


「今日、僕の誕生日なんです。」


「あっそう。」




本で知り得た知識とはまるで違う反応に困ってしまった。
確か、こんなときは「お誕生日おめでとう」とか言ってくれると書いてあったはずなのに…

祝うどころか彼女は素知らぬ顔で歩いている。
僕も顔負けの無表情っぷりだ。

何となく面白くなくて、無意味に道端の小石を蹴る。
期待した僕が悪かったのかな。
だけどサクラなら言ってくれると信じていたのに。
彼女との関係も所詮この程度か。


蹴飛ばした石が壁に当たった。
分かれ道。
僕の左の道へ、サクラは右の道へ行かなければならない。




「それじゃあまた明日。」



ついに彼女は何も言わずに去っていった。
だんだん姿が小さくなり、そして見えなくなった。


つまらない。
根と何も変わらない。
開きかけた心の扉を閉めてしまいたくなった。


────


悶々とした気持ちで家に着いた。


“繋がり”がなんだ。
結局口だけじゃないか。
傷付くなら以前の僕に戻ってしまえばいい。
ねえ、兄さん。
兄さんはどう思う?


…兄さん。
久々に兄さんのことを思い出した。
ここ最近は7班のことで頭がいっぱいだったからかな。
別に兄さんのことを忘れていたわけじゃないよ?
ほら、こうやっていつもリュックに…


本を取り出したつもりが、手にしていたのは別のものだった。
…何だこれ。
綺麗にラッピングされた見知らぬ小包。
淡いピンクの不織布の包みに赤いリボンが添えられて。


どう見ても女の子への贈り物だ。
自分の誕生日だからとついつい浮かれ、間違えて持ち帰ってきてしまったのだろうか。
早く持ち主に届けなければ。
しかし困ったことに包みには宛名も送り主の名もない。
…こうなればしょうがない。
罪悪感はあったが、仕方なしに包みを開けることにした。


まず始めに出てきたのは細かな物がさらに詰まった小さめのパッケージバッグ。
柄が邪魔でよく見えないが、中にはパズルのピースが入っているようだ。
そしてもう一つは分厚い紙でできた台紙。
おそらくこのパズルのピースだろう。
パズルが完成すると見えなくなる面にメッセージが書き込まれている。


なになに…?


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
お誕生日おめでとう!まさか私からプレゼント貰えるなんて思ってもみなかったでしょ?作戦大成功!
暇があるときにでもパズル組み立ててみてね♪私なりに頑張ったんだから!…アンタには負けるけど(笑)
アンタと話すといっつもケンカごしになっちゃうけど、本当は大好きなのよ?昔とは違って、空気読めないなりに頑張ってるしね。
だから今度また二人きりでどこかへ出掛けましょう!うるさいお邪魔虫には内緒で(笑)
いい返事待ってるわ!
        2009.11.25
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


読み取るに、どうやらこれを受け取るはずだった人物は僕と誕生日が同じのようだ。
さらに、空気が読めないらしい。
何だか僕とそっくりだな。
…僕はプレゼントなんてもらえてないけど。
嫉妬じゃないけど、それに近い感情が芽生えた。


だが残念なことに肝心な名前が書いてない。
残る手掛かりはパズルのみ。
8×8…64ピースか。
これくらいならすぐ終わるだろう。
せめてこの誕生日の人だけでも幸せになってもらいたい。
そう思い僕はピースをはめていくことにした。


パッケージバッグを逆さにするとバラバラとピースが落ちた。
まだ何が完成するかわからないが、見たところ絵は送り主の手書きのようだ。
印刷ではなく油性ペンと色鉛筆で色付けられている。
そんなピースの山をかき分け、ようやく角の4つを見つけた。
順調にその他の部分も埋めていく。
パズルなんて何年振りだろう。
久々の感覚に時が経つのも忘れて楽しんだ。


一つ、また一つとはめられ、ついに余ったピースなくなった。
もう送り主も受け取る人も完全にわかった。
たが、真ん中のピースだけが一つ足りない。
このせいで素敵なパズルが台無しだ。
このプレゼントの送り主、とんだおっちょこちょいだな。
そんなときは本人に教えてあげればいい。




「いい加減中に入ったらどうです?おっちょこちょいのうっかり屋さん。」


「あはは…バレちゃってた?」


「来たときから気付いてたよ。」




申し訳なさそうにドアから顔を覗かせたのは、紛れもなくこのパズルを作った人物。
まさか入れ忘れてるとは思わなかったと彼女は言う。
そして、ポケットからピースを取り出し僕に差し出した。




「サプライズしようと思ったのに、ある意味こっちがサプライズよ。…はい、これね。」


「ありがとう。」




僕はそれを受け取り、真ん中の窪みに当てはめた。
これでようやく完成した。

左半分には色白の黒髪の少年が。
右半分には桜色の髪を持つ少女が。
少女の小指から赤い糸が伸び、先ほど埋めたピースのところでハート型にループして少年の小指と繋がる。
空いたスペースに大きな文字で書かれた言葉は…


“Happy birthday Sai!”“from Sakura”


「お誕生日おめでとう!…さっきはわざと無視してごめんね。」


「祝ってもらえたからいいよ。」




冷たかったのも演出なら、そんなの気にしない。
今はとても温かい笑顔を見せてくれているからね。
お世辞にも上手とは言えない絵からも、たくさんの愛情が感じられる。




兄さん。
僕にも新しい繋がりができました。
兄弟でも友達でもない。
もっと別の繋がりが…


─────Happy birthday Sai!!
          2009.11.25


‥‥おまけ‥‥

「ありがたいんだけど…」

「…何よ?」

「もう少し相手を考えてラッピングした方がいいよ。」

「悪かったわね!」

「あと、このサクラの似顔絵なんだけど。自分のこと美化しすぎ。」

「うっさい!!」

「でも僕はナルシストさんともデートしてあげ…」

「しゃーんなろー!!」

「ごふっ…」


****

のんちゃーん!超絶萌えサイサクをありがとう〜!!
パズルなんておしゃれすぎるよvvvv流石はのんちゃん(*^^*)
かわいくて透明感のある文章は尊敬です!
心暖まるお話をありがとうございましたっ★

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あきゅろす。
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