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むせ返る
辺りにはむせ返るような血の匂いが充満していた。
「さつ、皐月!!!」
口元に抑えていた手を外してそう呼びかける。
皐月の声は帰ってこない。
意味を理解したとたん頬に生暖かい物がつたった。
次から次へと溢れてくる涙は止まるようには見えない。
泣いている場合じゃない。
鉛にように重くなった足を無理やり動かし、
横たわったまま動かない皐月にいそいで駆け寄る。
いや、正確には駆け寄ろうとした。
クスクス…
どこからか笑い声が聞こえた気がした。
前方に視線を移すと人がいることが分かった。
…いや、あれは人じゃない。
あれは…
「僕…?」
目の前には僕にそっくりな少年がいた。
いた、というのには少し違う気がした。
そこにいるのにいないような、一人だけの空間が彼の周りにはできていた。
陽炎
どうして自分でもそう思ったのかはわからないが瞬間的に頭の中にその言葉が浮かんだ。
目の前にいた少年が口を開いたのが見えた。
『嘘じゃないよ』
そうはっきり聞こえたあと、陽炎は笑っていっるような気がした。
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