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連綿たる経常
そんな日も。

神アレ要素が低い……、ような気がするような……。
それでも大丈夫な方はどうぞ。
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ごろごろと喉を鳴らして、機嫌良く微睡む猫のように。

日溜まりにある談話室の椅子に、まぁるく蹲るように。

靴を床に脱ぎ捨てて、膝を抱えた姿勢で、ソファーへと。

白い髪が光に透けて、きらきらとした輝きを、やわり、と、放つ。

椅子から落ちないように、はみ出さないように、ころ、と、姿勢を変えて。

目線を窓の外から、廊下側の窓へと移し、また見遣る。

行き交う人に彼が混じらないか、そう思いながらアレンは眺めた。

黒い髪を、長い髪を高く結わえ、目を魅(ヒ)き美人な彼を。

背が高いからか、足は長く、歩調は早くて一歩が大きい。

多分、見え始めたら、10歩にも満たずに、彼なら通り過ぎるだろう。

本当は傍に居たいけど、陽射しの下、目に付く時間では無理。

すべてを隠し、紛れ込ませる暗闇が訪れる時刻でなければ。

今隣に居る、見張りのリンクが、少しだけ譲歩してくれる夜でなければ。

ごろごろとしながらも、人の流れを追い、日溜まりと戯れる。

冬の寒い季節に、包み込むようなこのやわらかな温もりは。

彼の腕(カイナ)を思い出させて、心地が良くてひとつ欠伸を噛み殺す。

暫すれば昼を告げる頃、此処を横切り食堂へと移動する筈。

一目で良いから、話掛けたりはしないから、一方的でも会いたい。

でも、抗い難い、抜け出したくない、きつくない太陽の熱は。

眠りの園へと誘おうとするかの如く、目蓋を閉じさせようとする。

「ウォーカー、」
「……ん、」
「見逃しますよ」
「ん、……」

気付いたリンクが声を掛けてくれるけれど、きっと後少しだけれど。

気付いた時には、黒が覆う世界で、がばり、と、身を起こせば。

滑るように広がる視界に、目に入るは、椅子に掛けたリンク。

確か、不動の姿勢で彼は立って居て、何も手にはしていなかった。

だが、今、リンクの手には本が持たれ、横のテーブルにも数冊。

それは時間の経過を現していると言う事、彼を見たら食事をするつもりで。

それなのにその手には、時間潰しの本が握られていて。

「……リン、ク」
「起きましたか?」
「……ご……め、ん」
「別に構いません。途中で変わって貰いましたし」
「変わっ、て?」

日溜まりが移動して齎されたと思った影は、身の上に蟠る黒。

自分の団服は寛げては有るが、纏ったままで、この羽織る物は。

「見んじゃ無ぇよ、と、睨まれましたよ」
「……ぇ、」
「理不尽ですね」
「……ユ、……神、田?」
「他に誰が居るんですか。貴方の恋人以外に」
「ごめ、ん……リンク」

此れ見よがしな溜め息と、諦めた様な視線とが落とされる。

「誰も手を出しません、と、よく言い聴かせておいて下さいね」
「……ぜ、善処します」
「此方の言う事何て聴かないんですからね。貴方が言わなければ」
「は……ぃ、……」
「後、」
「……何?」
「お仕置きが必要だな、と、言ってましたよ」
「……ぇ」
「自分のモノだと言う牽制と、伝言込みだと思いますので伝えておきます」
「……ぅ、……ぁりが、たくない……です」
「知りませんよ。兎に角、巻き込まないで下さいね」
「御迷惑、を……、御掛けしまし、た」

がっくりと項垂れながら、靴を履き、掛けられた上着を、きちり、と、畳む。

「髪が跳ねてますよ。服もきちんとして下さいね」
「何処?跳ねてるの。リンク、直し……」
「殺されたくは無いですから。自分で直して下さい」
「……ケチ」
「命を無駄にはしたくはありませんから」
「ぅ、……ですよね」

胸に優しく荷物を抱き込むと、部屋を出るリンクに続く。

「残念でしたね。見送れ無くて」
「……意地悪、」
「ちゃんと言いましたよ?見逃しますよ、と」
「……うぅ。……ですよね。はい」

光を集めて温まったそれを、きゆ、と、抱きしめる。

「もう出ましたよね……」
「数時間前に」
「ですよね……」

だからこそ、見送りも兼ねて、彼を神田ユウを見ようと思ったのだから。
大好きで堪らない、愛する彼を、見ておこうと。

「……30分程は二人きりでしたよ」
「嘘っ!」
「その間に此方は食事を済ませましたから」
「……嬉しいけど、……嬉しくない、よ」

昼間は会えても仲の悪さを装うから、二人の仲を隠す為に。
だから会えているけど、会えて無くて、だから寂しい。

今にも泣き出しそうな顔で、切なそうによりそれを抱きしめる。
ちら、と、その顔に視線を投げ掛けてリンクが呟いた。

「貴方は残念かも知れませんが、彼は満足そうでしたよ」
「え?」
「椅子を動かして入り口から見えない様に貴方を隠して」

じつ、と、見詰め耳を傾けるアレンに言葉を続ける。

「彼を見て態々中に入る者は居ませんからね」
「……それで?」
「半身だけ自分が覗く様に座ると、ずっと寝顔を眺めていましたよ」
「ずっと?」
「えぇ。ギリギリまで眺めて隠して行きましたからね、それで」

顔が紅くなるのを止められずに、手にした物を抱きしめる。

「……いちゃいちゃするのにも巻き込まないで下さい。迷惑ですから」

最後は呆れた様に伝えると、背を向けて歩き出す。
それがリンクの優しさだと解っているから、何も言わない。
見付かる訳にも、知らしめる訳にも行かないこの恋愛に、必要不可欠な協力者。
その後ろ姿を追って、アレンもゆっくりと歩き始めた。

「彼が満足したなら良いかなぁ……」
「でも、自分としては寂しいんですよね?その顔は」
「……だって、」
「どちらも満足していないよりは良いじゃないですか」
「ん……、そうか、な」
「よく話し合うことですね」
「そうする」

起きて居られなかった自分にがっかりしたけれど。

彼が満足して出掛けて行けたのならば。
そして慰めてくれる人が居るのならば。

今日のこの失敗も悪くないのかも知れないとアレンは考えた。


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