連綿たる経常 そんな日も。 神アレ要素が低い……、ような気がするような……。 それでも大丈夫な方はどうぞ。 ********** ごろごろと喉を鳴らして、機嫌良く微睡む猫のように。 日溜まりにある談話室の椅子に、まぁるく蹲るように。 靴を床に脱ぎ捨てて、膝を抱えた姿勢で、ソファーへと。 白い髪が光に透けて、きらきらとした輝きを、やわり、と、放つ。 椅子から落ちないように、はみ出さないように、ころ、と、姿勢を変えて。 目線を窓の外から、廊下側の窓へと移し、また見遣る。 行き交う人に彼が混じらないか、そう思いながらアレンは眺めた。 黒い髪を、長い髪を高く結わえ、目を魅(ヒ)き美人な彼を。 背が高いからか、足は長く、歩調は早くて一歩が大きい。 多分、見え始めたら、10歩にも満たずに、彼なら通り過ぎるだろう。 本当は傍に居たいけど、陽射しの下、目に付く時間では無理。 すべてを隠し、紛れ込ませる暗闇が訪れる時刻でなければ。 今隣に居る、見張りのリンクが、少しだけ譲歩してくれる夜でなければ。 ごろごろとしながらも、人の流れを追い、日溜まりと戯れる。 冬の寒い季節に、包み込むようなこのやわらかな温もりは。 彼の腕(カイナ)を思い出させて、心地が良くてひとつ欠伸を噛み殺す。 暫すれば昼を告げる頃、此処を横切り食堂へと移動する筈。 一目で良いから、話掛けたりはしないから、一方的でも会いたい。 でも、抗い難い、抜け出したくない、きつくない太陽の熱は。 眠りの園へと誘おうとするかの如く、目蓋を閉じさせようとする。 「ウォーカー、」 「……ん、」 「見逃しますよ」 「ん、……」 気付いたリンクが声を掛けてくれるけれど、きっと後少しだけれど。 気付いた時には、黒が覆う世界で、がばり、と、身を起こせば。 滑るように広がる視界に、目に入るは、椅子に掛けたリンク。 確か、不動の姿勢で彼は立って居て、何も手にはしていなかった。 だが、今、リンクの手には本が持たれ、横のテーブルにも数冊。 それは時間の経過を現していると言う事、彼を見たら食事をするつもりで。 それなのにその手には、時間潰しの本が握られていて。 「……リン、ク」 「起きましたか?」 「……ご……め、ん」 「別に構いません。途中で変わって貰いましたし」 「変わっ、て?」 日溜まりが移動して齎されたと思った影は、身の上に蟠る黒。 自分の団服は寛げては有るが、纏ったままで、この羽織る物は。 「見んじゃ無ぇよ、と、睨まれましたよ」 「……ぇ、」 「理不尽ですね」 「……ユ、……神、田?」 「他に誰が居るんですか。貴方の恋人以外に」 「ごめ、ん……リンク」 此れ見よがしな溜め息と、諦めた様な視線とが落とされる。 「誰も手を出しません、と、よく言い聴かせておいて下さいね」 「……ぜ、善処します」 「此方の言う事何て聴かないんですからね。貴方が言わなければ」 「は……ぃ、……」 「後、」 「……何?」 「お仕置きが必要だな、と、言ってましたよ」 「……ぇ」 「自分のモノだと言う牽制と、伝言込みだと思いますので伝えておきます」 「……ぅ、……ぁりが、たくない……です」 「知りませんよ。兎に角、巻き込まないで下さいね」 「御迷惑、を……、御掛けしまし、た」 がっくりと項垂れながら、靴を履き、掛けられた上着を、きちり、と、畳む。 「髪が跳ねてますよ。服もきちんとして下さいね」 「何処?跳ねてるの。リンク、直し……」 「殺されたくは無いですから。自分で直して下さい」 「……ケチ」 「命を無駄にはしたくはありませんから」 「ぅ、……ですよね」 胸に優しく荷物を抱き込むと、部屋を出るリンクに続く。 「残念でしたね。見送れ無くて」 「……意地悪、」 「ちゃんと言いましたよ?見逃しますよ、と」 「……うぅ。……ですよね。はい」 光を集めて温まったそれを、きゆ、と、抱きしめる。 「もう出ましたよね……」 「数時間前に」 「ですよね……」 だからこそ、見送りも兼ねて、彼を神田ユウを見ようと思ったのだから。 大好きで堪らない、愛する彼を、見ておこうと。 「……30分程は二人きりでしたよ」 「嘘っ!」 「その間に此方は食事を済ませましたから」 「……嬉しいけど、……嬉しくない、よ」 昼間は会えても仲の悪さを装うから、二人の仲を隠す為に。 だから会えているけど、会えて無くて、だから寂しい。 今にも泣き出しそうな顔で、切なそうによりそれを抱きしめる。 ちら、と、その顔に視線を投げ掛けてリンクが呟いた。 「貴方は残念かも知れませんが、彼は満足そうでしたよ」 「え?」 「椅子を動かして入り口から見えない様に貴方を隠して」 じつ、と、見詰め耳を傾けるアレンに言葉を続ける。 「彼を見て態々中に入る者は居ませんからね」 「……それで?」 「半身だけ自分が覗く様に座ると、ずっと寝顔を眺めていましたよ」 「ずっと?」 「えぇ。ギリギリまで眺めて隠して行きましたからね、それで」 顔が紅くなるのを止められずに、手にした物を抱きしめる。 「……いちゃいちゃするのにも巻き込まないで下さい。迷惑ですから」 最後は呆れた様に伝えると、背を向けて歩き出す。 それがリンクの優しさだと解っているから、何も言わない。 見付かる訳にも、知らしめる訳にも行かないこの恋愛に、必要不可欠な協力者。 その後ろ姿を追って、アレンもゆっくりと歩き始めた。 「彼が満足したなら良いかなぁ……」 「でも、自分としては寂しいんですよね?その顔は」 「……だって、」 「どちらも満足していないよりは良いじゃないですか」 「ん……、そうか、な」 「よく話し合うことですね」 「そうする」 起きて居られなかった自分にがっかりしたけれど。 彼が満足して出掛けて行けたのならば。 そして慰めてくれる人が居るのならば。 今日のこの失敗も悪くないのかも知れないとアレンは考えた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |