[携帯モード] [URL送信]

連綿たる経常
……だとしても。

比べる必要も。
並べる必要も。

何処にそんな必要性がある?

そんな事は無い。

必要無い。

全く。


「お前はお前だろう。違うか?アレン」
「……ぅん、」



彼程の自信は無い。

揺らがない自信。

真っ直ぐで。
真っ直ぐな。

そんな脅かされない自信。


「ユウ、」
「何だ」
「本当に……、僕で好いん、です……か?」
「当たり前だろう?お前が好いんだよ、お前だから」


きぅ、と、抱きしめられた腕の中で。

彼の胸に頬を当てて。

温もりと匂いと幸せに包まれて。

日頃隠された、素肌の熱に浮かされて。

自分だけのこの場所を、独り占めしながら。

幸せ過ぎて怖くなる。

手離せない。

もう二度と。

引き返せない。

よく解っている。

失ったら。

自分を失ってしまう。

それくらい。

誰にも。

渡せない。

譲れない。

それくらいに。

彼が、……好き。

大好き。

だから……、怖い。

とても。

だから。

確かめてしまう。

確認をしてしまう。

臆病で、鬱陶しいとの自覚を生みながらも。


「なぁ、」
「はい」
「お前は誰と比べている?何と比べている?」
「……ぇ、」
「俺を比べているのか?お前を比べているのか?」
「……」
「違うモノを比べても仕方の無い事だ。基が違うんだからな」
「それは……」
「悩む必要が有るのか?俺が気持ちを偽り、嘘を吐いているとでも?」
「違っ、僕は……」
「だったら、必要無いだろう。そんな悩みは」
「だって……」
「俺がお前を選んだ。お前も俺を選んだ。それだけだ」
「……だけど、」
「俺がそれで良いと。アレン、お前が欲しいと。そう望んでいる」
「……」
「それ以上も、それ以下も無い。比べるな、お前はお前で有れば良い」
「……でも、」
「俺は、嘘は言わない。別れたくなったら言ってやるから。安心しろ」
「っ、」

反射的に体を起こし、彼の顔を見詰めた。

寝転がる彼の顔を、じつ、と、見詰め。

返される静かな眸に、其処に真実を認め。

嘘偽りの無い、彼の正直な気持ちを。

何時だって、何時も、何時だって、真っ直ぐ。

そして、正直で、包み隠さない、痛いくらいの。


「嫌われたら……、そんな事は気にするな」
「でも、……」
「どうしよう、ではなく、そうならない為に考えるんだ」
「……」
「努力をしないで狼狽えるよりも、実を結ぶ方に意識を持って行け」
「……ど、努力は、して……る、」
「だったら、自分を誇れ。結局は自分の中の劣等感や負の感情に過ぎない」
「……それは、解っている。でも、……」
「アレン」

ゆっくりと身を起こすと、背に腕が回され。

優しく、やさしく、抱きしめられる。

そして、耳元で囁くように聴こえる声。

「お前は何時も何を恐れている?何が怖いんだ?」
「…………。……、の……ち」
「何?」
「……自分、の、我儘、……気持ち……と、ユウ……の、気持ち、」
「それから?」
「周りから……の、見られたら、……その時の……、」
「お前は考え過ぎだ。だから、雁字搦めになって苦しくなるんだ」
「でも、……ずっと、ずっと、ね、……失うばかり、で……」
「ん?」
「手に、手に入、る……温もり、が……失いたく……、ないっ」
「アレン……」
「独りは、……もぅ、嫌」
「……アレン」

困ったように、ひとつ溜め息が溢され。

顔は見えないけれど、きっと。

きっと、呆れられている……。

嫌われたくない。

困らせたくない。

どうしよう。

どうしよう。

どうしたら。

嫌われたくない。

独りは嫌だ。

もう、独りで居るのは無理。

戻るのは無理。

知ってしまったから。

この温かさを。

手離すなんて事は無理。

絶対に。

なのに。

なのに。

なのに。


「アレン」
「……はぃ、」
「お前が納得するなら、此の身にお前の名を刻んでやる。お前の物だと見える証が必要なら」
「ユ、ウ……?」
「知っての通り、俺の体は癒してしまう。刻んでもそれは残らない。だが、」
「……だ、が?」
「お前が安らぐなら、目の前で日々その名を刻む。お前を愛している証しとして」

腕を解いて、見詰めてくる視線は静かで。

黒い瞳は躊躇わぬ決意が見えて。

でも。


「ぃ、嫌……」
「足りないか?」
「違う!ユウが傷付くなんてっ」
「お前は今も傷付いているじゃないか。それを癒したい、俺が」
「だっ、て……、それは、……僕の、我儘でっ、……」
「じゃあ、これは俺の我儘だ。お前を不安にさせたくないんだよ、アレン」


やんわりとまた閉じ込められて。

その温かな腕の中に守られて。

このまま死んでしまえば良いのに、と。

そんな浅ましく身勝手な思いが過る。

彼を遺しても、自分が遺されても。

嫌だと思うだろうに、間違い無く。

なのに……、この幸せな今を。

永遠に、永遠にしたいと思った。


[*前へ][次へ#]

58/70ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!