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幻想
覇王様と、時々魔女(仮)。前篇(スーダン・田中眼蛇夢)
※お相手は田中くんです。こちらも大変嬉しい事に、キリ番リクエストで頂きました!(もに様、リクエスト有り難うございます!!)

※ご希望がついつい中二に乗っちゃう主人公ちゃんで甘め、という事でいらっしゃいましたので、井澤の少ない中二フル稼働で主人公ちゃんも設定設定させて頂いております。

※容姿・能力設定はございませんが、弟くんがいる設定ですので、お姉ちゃんって感じです。

※以上諸々、ご快諾頂けましたら此度もお付き合い頂けましたら幸いです。



*****



「…き、貴様はッ…“聖なる光に導かれし者”…!!

ハッ!まさかこの異境の地までも、この覇王たる俺様を追ってきたというのか…!?

今は苟且が名を騙っているようだが…俺様の瞳は欺けんぞ…!!」


初めて会った時の、第一声は、そんな感じ。

『…は、い…?』

それは、もう、普通に。
初めての展開にガッツリ置いていかれれば、

「なッ、ま、さか貴様…記憶障害を起こしていると、いうのか…?

まぁ…次元を越えんとするが際の時空圧は、マインドへのダメージも生半可なものではないからな…。」

更に新たな設定付け(?)が進んでいくけれど、
それでもしばらく反応できないままの私。


(ど、どうし、ようっ…?)


なんて内心では困っていたのだけど、

チラっとこちらを伺ってくる、
構ってほしいというか、遊んでほしいというか、
どこか甘えるような彼の視線が…


(…ゆ、ゆう、くん…!?)


日本に居る年の離れた弟を思い出すようで…
正直、きゅん、ときてしまいまして。


『……よ、よくぞ、見破りましたね、氷の覇王っ!!

わ、私の目が黒い内はっ世界征服など、絶対にさせませんっ!!』

いつもは悪役側なので、ちょっと苦戦しながらも…
弟と培った戦隊ごっこスキルやRPG知識を駆使して、
私もバッとポーズを付けて返してみれば、

見るからにぴくっと反応して、

「…フ、ハ…フ、フハハハハッ!!!
やはり真が姿を偽っていたのか、みょうじよ!
だが、貴様如きに…この俺様が止められると思うなよ!?」

もうっ、それは、嬉しそう、で…!!悶。


すっかり大きな弟が出来たような気分になった私は、
これから目一杯に彼を甘やかす事となります。



――



例えば、一緒になった採集の日はもちろんの事。



「…ほう?今日日の側辺は貴様か、みょうじ…。

フン、まぁ良いだろう…貴様が力は俺様とて少々認めてやるところだ…。
現下、この刻だけは!共闘と洒落込んでやろうッ!!」

ふむふむ。
つまり、一緒に頑張ろう、という事ですね。

『…そうですね、これもみんなの為…致し方ありません。
貴方が覇王という事実は忘れ、今日は二人、力を合わせて頑張りましょう!』

あくまでも、一時休戦ですね!と乗っておけば、

「フハハハハ!!俺様が黒き魔力と貴様が白き魔力を合わせれば、未知なる領域へ踏み込む事も可能だろう…。

…征くぞッ!みょうじッ!!」

行き先をビシっと指さして、歩み始める彼が…

今日もすごく…楽しそう、でっ…!!!悶。


思わずその場で少し悶えていれば、
私が付いて来ないと気付いたらしく。
ピタっと足を止めて、やっぱり私の様子を伺うように、ちょっとだけ振り返る田な…覇王様。


(ああ、もうっ!しょうがない、なぁ…っ!!悶。)


とたたーっとすぐに駆け寄って、

『…少々、装備の確認をしておりました。』

持ち物確認してただけ、と笑って見せる。

「む、そう…か。
確かに装備を怠れば、命にも関わってくるからな…。

…何故ならば、これから赴く地は地獄へも通ずる魔掘なのだからな…!!」

フハハハハ、と元気になった彼を、姉心たっぷりに見守って。

そうですね、とにこにこと返しては、
彼と設定合戦を繰り広げながら、採集場所へと向かいます。


――


そして採集中は、対決するのがセオリーです。
男の子とは、押し並べて勝負事が好きなもの。
それでもって、大概、負けず嫌い。


だから手加減して…



…なんて馬鹿な事は言っていられません!!


どれだけ彼が可愛かろうと、ゆうくんに似ていようと…

私たちはもう高校生!!
体格・骨格・筋力・体力、全てにおいて男子の方が遥かに上。

なので決して手は抜かず、全力で取り組んだところで歯が立たず。
私は全戦全敗記録を華麗に更新中な訳で…。


…これは設定とか関係なく、いつもちょっと悔しく思うところ。

それなのに、

「…ハッ!どうしたみょうじ?その程度か…?

それでは全く話にならんな…どうやら、今日日も俺様が制勝は堅いようだな!?」

なんてフハハと言われました日には、もう!!

『むっ!まだ勝敗が決まった訳ではありませんよ!氷の覇王!』

すかさず異議を申し立てるけれど、

「…ほう?
ならば貴様が総力で以って掛かる事だな!!さもなくば、ただ無情に、歴然と、俺様との差が開き続けるまで…。

…まぁ、譬い貴様が己が臨界を突破しようとも、万に一つとして俺様には敵わんだろうがな?」

軽ーく鼻で笑われてしまう…。



…うー!悔・し・いっ!!見てらっしゃい!!

と設定とは反対に、悪役っぽい台詞を心で吐いて、ザクザクと。
更にえいっとツルハシを全力で振り下ろせば、


コン、と早速、何かに当たった音。


(…あ!やった…!!)


どんなもんですか!とすぐに掘り返そうとしたのだけれども…
ちょっと、困った事に。


(…お、や…抜けない…?)

深く刺さりすぎてしまったツルハシが、全く抜けなくなりました…。



とはいえこのままという訳にも参りません。
仕方がないので、んーっ!と力一杯に引っ張れば、

『ーっ!…っわ、きゃ!?』

ツルハシがすぽっと勢い良く抜けた反動で、
そのまま後ろにドサっと、盛大に引っくり返ってしまう。

『…い、ったたぁ。』

でも大きくて派手な転倒音の割には綺麗に転べたようで、打った身体もそんなに痛くないし…ちょっと腕が擦り剥けた位で済みました。


よいしょ、っとすぐに起き上がれたものの、

「…みょうじ!?」

あまりの豪快さに、田な…覇王様にも気付かれてしまったようです。

『…へへ、ドジってしまいました。』

これは恥ずかしいところを見られましたね?
と笑ってその恥ずかしさを誤魔化してみたのだけど、なんだか彼の視線は腕に集中しているような…。


ん?とその視線をなぞって見てみれば、擦り剥いた腕から少しだけ血が出始めている事に気付く。

『…あれ。』

(絆創膏持ってたかな?
でもこれ位なら舐めとけば治るよね…。)

うん、と自己解決して、ツルハシを拾おうとしたところで、

「…戻るぞ、みょうじ。」

…帰還命令が下りました。
言われたかと思えばくるりと背中を向けて、早々に帰り道を辿ろうとする田な…覇王様。

『えっ?どうしたの?
…あ、私なら全然大丈夫だよ?ちょっと擦り剥いただけだし…。』

採集だってまだ途中だし、と慌てて彼の背中を追うけれど、
隣に並べば何やら尖った視線とお言葉が。

「…フン、貴様には解らんだろうが…この地の瘴気は厭に濃いのだ。
たかが裂傷と侮れば、貴様の脆弱な身体等…内側から侵され観るも無残に腐敗するぞ。」

…設定掛かった、きつめな物言いなのも…どこか余計に可愛い気がするのはどうしてでしょうか。
なんて条件反射に悶えていれば、
それに、と彼の言葉はまだ終わっていなかったようで、

「…手負いの貴様に清勝したところで、俺様は何も心嬉しく等ないのだからな。」

…だから大人しく戻れ。

ぷい、と顔を背けてストールで隠しても、それでも解る位に赤くなってる彼の顔がやっぱり可愛くて、こんな小さな傷1つでも心配してくれる優しさが、すごく嬉しい。


(…ふふ、ゆうくんも私が怪我したりすると、姉ちゃん、ってすぐに駆け寄ってきてくれたな…。
怪人だの魔王だのって設定の時も…絶対。

…そういうところも似てるというか、なんというか…。)


…私はどうにも、こういう弟感に、弱い。

そんな大事じゃないんだけど、と苦笑してしまうような思いもあるけれど…
せっかく心配してくれてるんだし、素直に従う事と致しましょうか。


『…うん、解った。
田中くんがそう言うなら…戻ろうかな。』

身体が腐っちゃったら困りますからね、とそのまま並んで歩く。

「フン、次機以降も必ずそうしろ。
…良いな?」

早くも覇王様モードに戻り始めている彼に、ジロリと睨まれながら釘を刺されれば、
まだストールに埋もれたままの顔では迫力に欠けるのではないですか?なんて、ちょっとだけ反抗してみたくもなってしまうけど…

そういうところも全部ひっくるめて、きゅん、と来てしまうのが、多分、姉心。


『…はい、そうします。』

でも抑えられずにくすくす笑いながら答えれば、

「むっ!?みょうじ…貴様ァッ!!真に解っているのだろうな!?」

どうやらストールの存在は忘れているらしい田な…覇王様に怒られてしまうので、

『…ふふ、ごめんね。なんだか嬉しくて、つい。』

素直に言ってみるけれど、やっぱり笑ってしまうから、また怒られて。


そんな言い合いをする道中も楽しくて。
本当に、どこか彼には敵わないなーと思ってしまいます。


――


そして甘やかしは、休日だって例外ではなく。
彼と出会えば、いつでもどこでも設定ON、です。



…なんて噂をすれば、向こうから覇王様がいらっしゃるではありませんか。

設定が違う時もあるので、大体は彼が先に話してくれるのを待つのだけど…

「…む?
みょうじ…今日日は少し、異なる装いだな…。」

…でも、今日はちょっと、違った展開です。

見た目の話から入られたのは…初めてかも。
きっと私が珍しく髪を結って、右側に纏め上げているからだと思うけど…。


(うーん、普通に返しても面白くないかな?
いや田中くんも普通に言ってくれてるんだし、それで良いのかもしれないけど…。)


なんてちょっと返しに悩んでいれば、私が何も言わない事に、
もしやまずい事を言ったのでは…?
と、少し焦り始めているような田中くん。

その珍しく慌てている感じがまた可愛くて…!!悶。


なんだか…そんな彼の様子を見ていたら…イタズラ心が湧いてしまうというか…。


…はっ!!
と、思い付いて、しまいました。


いつもは設定上もあって、主導権を握られるばっかりだけど…
今日は田中くんを焦らせたり困らせたりして、もっと可愛い彼を見てみたい…かも。

(…あ、そうだ。
隙を見て触ってみたりしたら、どうなるのかな?)


なんて、閃いてしまった訳でして…。


全ては野望の為…
早速、この思い付きを実行へ移して参りましょうか…。


『…フフフ、流石は氷の覇王といったところかしら?
ええ、そうよ、私はみょうじさんではない…。』

やたらと声を作って語り始めれば、

「…ッ!?やはり、そうかッ!!
貴様…何者だ?…みょうじをどうしたのだ!?」

彼もそれと解ってくれたようで、乗ってくれる。


(…よし!これならいけそう!)

その様子を確認してから、続けるのは…私の今の、設定です。

『…フフフ、私の名はプリシード。異界が碧き魔女…。
みょうじさん…彼女は私が預かっているわ。』

にっこり、と意味有り気に笑って。
咄嗟に作った設定に深みを出しておけば、

「…くッ、みょうじを人質取ったと、いうのか…!?
貴様の目的は何だ…?何を、狙っているッ!?」

さらに彼が雰囲気たっぷりに返してくれるから、
私はそのまま、お話を進めていく。

『…特に目的等ないわ…彼女に恨みもないし、ね?
…でも、彼女の命は今、私の手の平の上…。』

さぁ、どうしようかしら?
そうもっと、妖しさを醸し出すように言えば、

「…き、さまァッ…!!!
俺様に、何を望んでいるッ…!?」

ギリッと、私を睨み付ける彼の迫力に、少したじろいでしまう程に。


(…こんなに、乗ってくれるとは思わなかった、な…。

なんか…私の為っていうか、一応、私を救う為に魔女の要求を呑む、っていうストーリーになってきてるし…。)

ま、まぁ…でも、予定通り。

そして私の真の目的の為に…崩れ掛かった表情をまた澄まして、

『…フフフ、そうね…彼女を殺されたくないのなら、今日1日は私を持て成してもらおうかしら?
そうすれば彼女は返してあげるわ…。

…けれど、私が機嫌を損ねたら…無事かどうかは、解らないわね?』

主導権を握る為、わざと脅迫めいた台詞を吐いて。
…心はなんだか本当に悪役気分。

徐々に魔女に成りきっていく私の言葉に、

「…ッ…!!」

どこか悔しそうに、更に鋭利に磨がれた彼の視線にも……


今は、屈しません…!

『…フフフ、どうしたのかしら?
…いいえ、どうするのかしら?氷の覇王…。』

フフ、と笑う今の私は、どれ位悪い顔をしてるんだろう…?
それも気になるところではあるけれど、このまま色んなわがままで困らせて…可愛い彼をたくさん見たい思いが優れば、演じている自分という事までも麻痺していくようで。

「…フン、良い…だろう。
今日日は俺様が直々に、貴様を持て成してやる…。

…だが、先の約諾は…守ってもらうぞ。」

彼の二の句が…肯定してくれれば、
今日は私が、彼を振り回す権利を得る。

『…ええ、約束するわ。

じゃあ…ますばそうね、この世界の娯楽が知りたいわ。』

「…そうか、ならばどこへ也と連れていってやろう…。」

さぁ、どうするのだ?
と早速行き先を尋ねてくる彼に、微笑んで。





―上手く、上手く、行きました。
後はたくさん、彼を困らせる事と致しましょうか。

…それでは、クエストスタート!です。






前篇・終

To be continued….


*****


はい、中二病ごっこ、と承りまして頑張らせて頂いている所存ですが…井澤の中二スキルが低く、大変申し訳ございません…(是非地獄の業火で消し炭にして頂きたく…号泣)
不甲斐ないばかりで申し訳ございません(陳々謝)

そしてこんな似非中二なドイヒークオリティにも関わらず…ごめんなさい、続きます…。
思っておりましたよりも長いお話となってしまいましたので…急遽分けさせて頂きました。
後半の方が幾分か長いお話となってしまっておりますが、宜しければ後篇もお読み頂けましたら幸いの限りです。
まずは前篇、お付き合い頂きまして本当に有り難うございました…!!

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