幻想
覇王様と、時々魔女(仮)。後篇(スーダン・田中眼蛇夢)
※お相手は田中くんです。大変恐縮な事にキリ番リクエストで頂きました同作品の後篇でございます。(もに様、重ねてお礼申し上げます!)
※こちらからでも読まれても大丈夫かとは存じますが…流れを把握されます際には前篇もお読み頂きました方が宜しいかと思われます…。
※引き続き中二っぽい設定でな主人公ちゃんで甘めな展開となります予定です。
井澤の中二が絶賛残念で申し訳ございません(土下座)
※動揺に容姿・能力設定はございませんが、弟くんがいる設定で、お姉ちゃんな感じです。
※以上諸々、ご快諾頂けましたら後篇もお付き合い頂けましたら幸いです。
*****
ちょっと悪役じみた姑息(?)な手段を取ったものの…
田中くんの了承の上で、1日中振り回しちゃうのも可能な権利を手に入れた私。
なんだかウキウキとしてしまうのは、魔女キャラの為に隠さなきゃだけど…
減らないわがまま券なのだから、それは惜しみなく使いましょう!
…という事で、まず手始めに、映画館。
もちろん、彼の可愛い泣き顔を見る為の選択です…!!悶。
…そう思っていたのだけど。
いつの間にかチケットが買われていて映画は選べないし、動物ものじゃないからか彼は全然泣いてくれないし…。
むしろ私が号泣してしまって、ハンカチを差し出されてしまう有様で…。
『…うっ…あ、り…がとう…。』
「…フン、気にするな。
…しかし異界の魔女というのは、随分と情に脆いのだな…?」
ハンッと、どこか挑発してくるような…
なんて、余裕のある、笑み…!!!
『なっ、た…たまたま、よ。
今日は…朝から、目の調子が悪かった事を忘れていたわ…。』
見え見えな強がりを言ってみたところで、涙が止まる訳もないんだけど…。
ぐすぐすと、泣いて締まらない顔ながらも、彼を睨み付けながらに返せば、
「…ほう?
ならば早くに枯れ果てれば良いな、あと二刻(1時間)程は続くからな…。」
『…っ!!』
…暗がりで冴える聴覚と、いつもより近い距離で。
自然と早く届く声が、とても、楽し、そう…。
(…すっかり、主導権…戻っちゃって、る…!!)
彼の涼しい横顔がどうにも悔しい…。
なのに、次こそは…!と思いながらも、全然涙が止められない自分が悲しい、です…。
(私、悪役…向いて、ない…かも…ぐすっ。)
――
…映画館は失敗でした。
でもまだまだ時間はあるのですからね…
だったら、次は遊園地でしょう!!
ここなら1つ位、田中くんが苦手なものもあるかもしれないし…。
マスコットと並んで写真とか強要したら…すごく照れてくれたりしちゃう、かな…!?悶。
「…何から行く?とりあえず…これか?」
…ジェットコースター。
『…今日は、遠慮しておくわ…。』
「…ならば、これはどうだ?」
お化け、屋敷…。
『…フフ、異界ではお化けなんてありふれているから…。』
「そうか、ならば行けるな?」
『…やっぱり、そこも遠慮させて頂こうかしら。』
「…。」
『…。』
…うん、私がほとんど乗れない、って事…忘れてたよね。
それでも魔女の設定だけは崩さずに、と頑張るけれど、
「…どれなら、乗れるのだ…?」
そう目線を合わせるように軽く屈んで聞いてくる彼の表情が、見た事もない程に柔らかくて…まるで小さい子に接する時のそれのようで…。
(うう、また主導権がっ…。)
目的からどんどん離れているような気がするけど…
せっかく来たんだし…何も乗らないっていうのもな…。
うーん…ちょっと、魔女の設定には合わないけど…
『…コーヒー、カップ…に、乗ってみたいわ。』
「…解った、征くぞ。」
一応、口調だけは魔女のままに言ってみれば、
嫌な顔なんて少しもしないで、応えてくれる田中くん。
(…これは今の設定があるからかな、それとも元々、なのかな…。)
――
…結局、彼の優しさに甘えて、わがまま放題は尽くしたのですが…。
メリーゴーランドやらミラーハウスやら、平和なアトラクションばっかりだったからか、いまいち困らせられなくて…。
久しぶりの遊園地だったのもあって、途中から私も思いっ切り遊んじゃったし…むしろ彼の方が私の保護者のようだった気も致します…。
例のマスコットキャラとの2ショット写真だって、バッチリ決めポーズで写られちゃったし…。
(…ああ、彼のカメラ目線っぷりを完全に忘れてました…。)
相手が誰とか、関係なかったのですね…。
それでもマスコットと並んで写ってる田中くん、ていうだけでもちょっとシュールで可愛い、かも…。
戦隊ヒーローと写真を撮った時のゆうくんばりに、すごくいい笑顔で本当に楽しそうだし…。
…うん。
これはどうにも姉心を擽られる素敵な写真なので…手元に残しておく事に致しましょう。
――
…遊園地も私の力足りずでほとんど失敗に終わりましたが…
次、次こそ、本命です。
田中くんが油断してる隙に触れる…
これをついに、決行です。
…設定上、やっぱり怒るかな?
でも流石に焦って、真っ赤になっちゃったり、して…!!悶。
よしっ!行くのです、私!!
『…次は…少し疲れたし、休みたいわ…。
それに…癒しも欲しいところね。』
…外で田中くんに触れる、というのはなんとなく人目が憚られるので(彼の設定もあるしね)室内への移動をさりげなく提案。
「…ああ、良いが…癒し、とは…何だ?」
ん、良いところに気が付きましたね!
素直に聞いてくる田中くんの弟感に少し耐えながら、
『…フフフ、貴方の四天王ちゃんにもお持て成しされたいと思って。』
引き続き、魔女として要望要求、です。
それを受ければ、そういう事か、と納得してくれたらしい田中くん。
…が、先に歩き出していく。
(…?
私まだ、行き先…言ってないけど…。)
――
いつもの癖で思わず付いてきてしまったけど、
あれ、また主導権握られてない…?
そう思った頃には、田中くんのコテージ前でした。
(…なるほど、自分のコテージにご招待、というお持て成しですね。)
これは予想外だったけれど、意外と好都合かもしれません。
彼も自分の部屋なら油断しやすくなるかも、だしね!
うんうん、とクエストの成功率UPに満足していれば、
「…入らんのか?」
彼が扉を開けて待ってくれていて、
『…お、お邪魔するわ…。』
慌てて中へと入っていく。
そして同時に、
ガチャ、としっかり施錠がされる音も響いたけれど、
彼の性格もあって、全然気にも留めませんでした。
――
初めて入る彼の部屋を一頻り見て回って。
…何かあれば、と思ったけど…
よく解らない魔道具?魔道書?なんかがあるだけで、彼が困りそうなものは見付からず…。
あとは本当に動物関係のものばかりで、安心するような、和むような気持ちなのですが…
…逆に高校生として正しいのかどうか、お姉ちゃんには解りません…。
しばらくして戻ってきた彼が入れてくれたお茶を嗜んで、
渡された四天王ちゃんをふわふわと撫でながら、
…こそこそと、彼の隙を伺うのだけれども、
(…なんか、ずっと、こっち…見てる…。
…あ、もしかして見張られて、る?
…これじゃあ隙なんて、全然ないなぁ…。)
あまりの隙のなさに心が折れそうです…。
今日一日を振り返っても振り返っても。
どちらかといえば、私の方が焦ってたような…。
(…うーん、これなら、お化け屋敷位頑張って入るんだったかな…?
そうしたら意図しなくても、どうせ触っちゃっただろうし…。)
つんつん、と四天王ちゃん達のお腹を軽く触って回って。
(…映画館行って、遊園地で遊んで、田中くんのコテージで四天王ちゃん達と戯れて…
すごく楽しいけど、これじゃまるで…。)
まるで…?
…まるで、何?私…。
『…っ…!』
…なぜか湧き上がってきたその単語に自分でも驚いて、
ビクっ、と身体全体にそれが現れてしまう。
ほぁっ!と我に返って、手の平の上の四天王ちゃん達の様子を確認すれば、
みんなゴロゴロと、何事もなかったようにしていて。
良かった…驚かせてなかった、みたい。
…むしろ、うとうととし始めている四天王ちゃん達…
今日は色々連れ回しちゃったから、お疲れなのかな?
「…どうした?」
私の挙動不審の方か、四天王ちゃん達の様子の事か、どちらかは解らないけれど、
『あ…四天王ちゃん達が、おねむみたい。』
はい、と魔女モードで彼に四天王ちゃん達を差し出せば、
「む、そうか…ならば四天王達は城へと帰還させるか。」
戻れ!
という田中くんの一声で、すぐに四天王ちゃん達が彼の元へと帰っていく。
…ここで手渡しも出来ないとは…。
触れるも何も、本格的に隙がございません。
これで最も有効的と思われた四天王ちゃん達とのふれあい中の事故、を装う手まで封じられてしまいました…。
うーむ、次はどうしましょう…。
更なる一手を考えていれば、
四天王ちゃん達をケージへと入れ終えた彼が戻ってきて、正面ではなく隣に腰を下ろす。
おや、移動されましたね?
この距離感はうっかりチャンス…!等と希望を見出しでいたところで、
田中くんが私の方を見て、覇王様っ気たっぷりに、フッと嗤って…。
…どことなく嫌な…予感、です。
「…して、プリシード、といったか…、貴様に一つ問おう。
先から俺様は貴様を持て成してやっている訳だが…みょうじの安否はどうなっているのだ?
人質は生きていなければ無価値に等しいからな。
…みょうじが無事と認識するに足る証拠を、観せて貰おうか?」
…まさにそれが的中すれば、いかにも私がそんなところまで考えていない事なんて、お見通しのご様子、で。
「…どうしたのだ?
よもや異界の魔女ともあろう者が、その程度も出来ん訳はあるまいな?」
完全にヒールな覇王様は、彼の十八番。
ニヤ、という擬音がよく似合う笑みに、焦かされるばかり。
…え、えーっと、
とりあえず、私が無事なら…いいんだよね?
『え…ええ、もちろん、みょうじさんは無事よ?
大体、私は彼女の身体を借りてこの世界に干渉している訳だから…。
そうね、証拠が欲しいなら…一瞬だけ、彼女の意識を戻してあげてもいいわ。』
…苦渋の策、として私が取ったのは、すごくバカなそれだったのかもしれません。
パチ、と瞬きをして、
『…あ、あれ?田中くん?
どうしたの?というか、ここどこ…かな?
…私、どうしちゃったのかな?』
あはは、とへらへらと。
状況が解っていない私、を演じて見せれば、
バシッと、両腕に不思議な…衝撃。
ん?と見てみれば、なにやらお札のようなものが貼られている、みたい。
『え、っと…?』
田中、くん…?と視線だけで尋ねてみれば、
「…その魔符には俺様の魔力が込めてある…拠って、かの魔女が異界より貴様に干渉してくるのは最早不可能…貴様は人質より解放された、という訳だな。」
大変ご丁寧なお札のご説明が。
…えーと、よし、これは、お礼とか言っておいた方が…いいかな?設定的に…。
そう思って、『あ』の口を作る私に、
「…しかし、随分と、好演だったな?みょうじ…。」
先に、覇王様の…やっぱり全てを見透かされているような、お言葉が…!!汗。
…いやそれでも、と冷静に。
今戻ったばかりの私を演じて、
『え、えっ?なんの、事…かな?
…なんか、魔女?から、助けてくれた、の?』
よく解らないけど、ありがとう、と誤魔化してみるけれど、
「…何を、企んでいた?俺様を陥れようとは、良い度胸だな?」
一層に、ニヤリと、口角を上げられる覇王様には通用せず…。
あっと、えっと、その、と歯切れの悪い私に、止めの一言。
「…隠し立てたところで俺様が邪眼からは逃れられんからな。
実直に話した方が…貴様の身の為だ。」
…つまり、ほとんど解ってる、って事だよね…。
別に、陥れる、なんて…そんな事は、全然思ってなかったけど…。
でも…田中くんを騙して色々しようとしてた事には、変わらないか…。
はぁっと大きく息を吐いて、
全て白状、致します…と前置きを入れる。
『…えっと…今日一日で…田中くんが、もっと慌てるところとか…困ってるところ、とか見てみたくて…。
だから、色々…。』
でも言ってみたら、なんだか、恥ずかしくなってしまって、声がどんどん、小さくなってしまう。
そんな私を見て、キッと目を光らせられる覇王様。
「…それだけ、か?」
そこ、まで…解る、のですか…。
ああっもう、解りました…!!
『あの、実は…偶然を装って、触って、みたり…したらどうなるかなー?とかも、思って…ました!』
ごめんなさいっと半ばヤケクソ気味に言ってみれば、
面白いおもちゃを見付けたゆうくんみたいに、田中くんの表情が、快然と、輝いたように見えて。
「…ほう?
つまり貴様は…俺様に、触れてみたかった、というのか…?」
嬉しそうな、透る、声色なのに。
その言葉からは、…さっきの、ゆうくんみたいな表情も、いつもの弟感も…
一瞬で、どこかに、行っちゃった、みたいな…響きがあって。
「…ならば望み通り、触れてやろう。
俺様とて、貴様の弱点(ウィークポイント)を測り兼ねていたところだからな?
この機に、心置きなく探るとするか…。」
片端を上げて、彼が深と嗤う。
弟みたいに可愛いと。
そう思っていた彼の変貌に、どこかついていけなくて。
呆然としていれば、動く彼の指先に、翻弄されてしまう、悉皆。
「…ここか?」
『…っ…。』
右耳に、触れる彼の指が、すごく…温かくて、初めて受ける…人の温もり、に驚いて。
…反応の1つまで、見逃すまいと昂ずる視線。
それを、無意識に避ければ、
「…ならば、ここ、か?」
『……っ…。』
顎を掴まれて、からがらと逸らした視線を、赦さずと、戻される。
…彼の邪眼から、逃げられない。
その真意を身を以って知れば、触れられた箇所が、また洸と熱くなってしまう。
微かに見つめ合えば、身体の自由を奪われたように。
反して彼の指先は、自由を慢じるかのように、遊ぶ事を止めてくれない…。
「…ここは、どうだ…?」
『っ…。』
顔を中心に攻められるものとばかり思っていた最中で、
引かれるように掴まれるのは、左手首。
恭しく手に手を重ねられれば、手を取られる、という行為にも、どこか非日常が募って、羞恥してしまうようで。
彼の熱に触れた手首までもが、腫れていくかのように、熱い。
取られた手が熱で重みを増して、それに気取られれば、
「…ああ…ここ、か?」
『…っ…!』
顔へと再び戻る彼の指先に、一際と反応してしまう。
頬でやんわりと円を描き、添えられる手の感覚。
その1つ、1つを、身体が敏感なまでに捉えては、私に事細かに、教え込もうとする。
もう触れられているだけで、熱くて、熱くて。
中でも一段と、顔に集まる熱に、遣られるように。
ほんのりと涙を浮かべてしまえば、それすらも彼の視線に晒されて、新たな熱を生む要因となってしまう。
きつく、目を閉じてしまえば、きっと、と。
バカみたいに信じては、解放を求めてそれをしようとする私を、彼はやっぱり逃してはくれず。
次へとなぞられる彼の指先が、
「…否、ここ…だな?」
『……っ!!』
唇を捕らえれば、閉じるはずの瞼が、他愛なく開けて。
著しい私の身の反落に。
彼が嗤って、嗤う。
「…やはり、な…。」
右端から左端へ。
ゆっくりと、ゆっくりと、感触を確かめるように。
滑らかに滑る彼の指先の熱さを、私の熱量が超えていくのを知れば、
耳鳴りのように、鼓動が鼓膜を劈かん、ばかり、に。
いやが上にも肩が跳ねて、一倍と反応してしまって。
それも全て、見取られている彼の、両眼に挟まれて。
その熱視からも、その轟音からも逃げてしまいたくて。
やっとと目を閉じれば、
私の熱量を更にと超える、熱源に出遭う。
『…ん、ぅ…っ…!?』
あまりの熱さに、それを確かめようと目を開ければ、
尚も私を捕らえる両眼が、嗤って。
『は…ぁぅっ…んっ…。』
押し寄せてくる熱気は、彼の吐息。
押し迫ってくる熱圧は、彼の舌。
『…んぅっ…はぁ、ぁっ…。』
…私、キス…されて、る…。
どう、して…?
解らない、けど…
何かが、確実に、揺らいだ事だけ、解る…。
『…は、ぁ…田中くん…どう、して…?』
ただ、理由が、知りたくて。
「…おなまえが…俺様に触れたいと、言ったのだろう?」
そうまだ湿る吐息と共に告げられれば、それだけで先程のキスが、甦って。
…その意味じゃない、と否定したいのに。
それすらも出来ずにいれば、
「…いや、それだけでは、無いな…。」
歎声を伴って、彼が私をまたと、捕らえる。
「…貴様が俺様を、弟のようだ等と…巫山戯た想いを持っているからだ。」
…俺様が、気付いていないとでも、思ったか?
そう嗤われれば、覇王様の邪眼に、畏れ入る、しかなくて…。
ぎくり、と分かり易く身体を強張らせれば、そのばか正直な反応までもくつと嗤われて。
次第に彼の笑みが引けば、
「…良いか?
貴様が眼前に在るのは、無形の凶器にして最悪が災厄…制圧せし氷の覇王こと、田中眼蛇夢なのだ。
断じて貴様の弟で等…血脈を同じく等、しておらんのだ。」
…気勢に満ちる、彼の声に、
他人、だと、諭される。
そんな、当たり前の事なのに、解ってた事なのに。
突き付けられた事実に、頭を殴られるような、衝撃。
そして、ますます、さっきのキスの感触を思い出して、
意味も、理由も、知ってしまったようで…。
『…っ!…あ、あの、ごめん、私…そのっ。』
そんなつもりじゃ、と言い掛ければ、
「…ならば、どういうつもりだったのだ?
貴様は…今日日を、俺様と共にしたいと言ったが…それも全て…設定の内と、言い捨てるのか…?
俺様と共にしたこの一日が刻さえも…何も、想うところ等無かったと…そう、言い放つのか…?」
苦々と、ほんの少し掠れを纏う、彼の声。
…彼の想いを知ってしまった今なら、この言葉の意味も、私がした事の非情さも、どこか解る、気がする。
…でも、そもそも…私の、根本が、間違っていたの、かも。
だって…さっき、それが想い過ぎっていたのに…自分を誤魔化してしまった、意識が離れない…から。
『…ごめん、ね…。
私…何も、解って、なくて…。』
自分の愚盲さを謝れば、
「…ああ、本当に、な…。
おなまえ、貴様は酷い女だな…俺様の想い等、知らずだったと…そう、言うのだろう?」
…酷いものだな。
酷いと、繰り返し言いながらも、力なく微笑む彼は、表情も、声音も、ただ、優しい。
素直で。
私を責めない彼だから。
それがまた、実感へと変わってしまう。
『…違う、の。
私…自分の事も…解って、なかった…から。』
ぐ、っと息を、呑んで。
『…ずっと、弟みたいで可愛い、って思ってたから…ずっと姉心ばっかりで…それが自分の気持ちだと思ってて、深く…考えた事もなかったの。
でも…でもね、今日、すごく、楽しくて…。
本当はさっき…、で…デートみたい、だなって…思っちゃって…。
…そんなの、弟みたいだって…本当に思ってたら、可笑しい、よね…?
…だから、ごめ、んっ!ふ、ぁっ…。』
ごめんね、と最後まで言い終える前に、
彼に塞がれた口から、空気が奪われてしまう。
…なんでまた、こうなっているのでしょうか?
なんて思ったけど、
口内を舌で探っては、ズレてしまう唇をピタっと合わせて。
少しでも離れそうになれば、歯が克ち合うまでに引き寄せられて。
どこか甘えるような口付けに、また甘やかしてしまうような自分が、それを咎められなくて。
『…んっ…ぁ、ぅっ…はっ…。』
ふはっと解放されれば、
「…つまり、貴様は…俺様を俺様と、確と認識した上で…聢と意識していた、という事だな…?
…ならば、良いのだ。」
すっかり機嫌が直られたらしい覇王様がそう嗤われるので、許してもらえてほっとするような思いと、その笑顔がやっぱり可愛くて…。
このまま絆されるのも…良いかな、とまで思ってしまう。
(…やっぱり私は彼に甘い。
…その理由は姉心だけじゃ…残念ながらなかったみたいだけど…。)
自分の気持ちがどこまでそうなのか、今はまだちょっと切り替えが難しいというか、解っている自信はないけれど…。
やっぱり鼓膜を破る勢いの鼓動が、それを絶えず報せるようで、どうにも恥ずかしい。
…しばらくは鼓動という新たな敵と格闘していて。
話す余裕がない私の様子を知った上で、彼はまた覇王様の設定スイッチを入れられてしまったようで。
「…しかし、弱点(ウィークポイント)へ俺様が毒が直接と触れているというのに…ここまで耐えるとは流石と言ったところか…。
…やはり、俺様の妃となるに相応しいな。」
さも当然のように、付加設定が…
…え、それ、設定…ですよね?
と答に行き着く前に、言葉が彼へと飛んでいました。
『え、き、きさ…妃、って…!?
な、何をおっしゃっているのです、か…?』
私達は敵対関係に値する訳で…いや、その、前に…き…す、だって…私が…許した訳では、ですね…!?
…次々と淀みなく。
私の意志を置き去りに創られる設定に、もっと怒ってもいいんではないでしょうか?
そう理性では思うものの、結局は怒るに至れず動揺していれば、
「…フン、俺様の世界征服を阻止するのだろう…?
ならば、その一生を添い遂げる他に、方術も無いだろう…。」
裏付設定、完備です…。
…でもそれも、設定の内…の事では、ないのでしょうか?
やっぱり頭の隅では冷静な私がズバリと突っ込んでいるのだけれど、彼の覇王気にあてられてしまえば、上手く申し立てが出来なくて…。
彼に対抗する設定も作れずに、あ、えと…、と口篭もるしかない私を、大変面白そうに眺められては、
「…俺様を、貴様の全てで、封じてみせろ。
まぁ…もう大方は…封じられてるかもしれんが、な?
…おなまえと共に居られるならば、世界征服に割く刻等…残りはしないのだからな…。」
フッ、と。
覇王様から素に戻られるように。
それはそれは、優しく微笑まれて…。
…ああ、捕らわれのお姫様達は、こうして悪の手中に落ちていくのですね。
そう、妙に納得してしまう…。
(…何度も、何度も攫われるとか…
いくらフィクションでも、可笑しいと思ってたんですよね…。)
はい。
いいえ。
…そんな2択の選択肢では、今は選べそうにないけれど。
きっと落とし穴だらけの覇王様のお城へと、
足を踏み入れてしまった時点で、勝負は着いていたのでしょう。
…抱き締められる感覚に、戦意がとことん奪われて。
更には落ちてしまえば二度と戻れない事と解っても、
その落とし穴に、自ら進んで落ちて行くような…
そんな錯覚を引き起こす、混乱魔法もクリティカルヒット中…。
設定百戦錬磨な覇王様に囚われて。
武装に役柄設定も取り上げられて、お姫様にジョブチェンジさせられて。
行く行くは覇王様と2人、幸せに暮らすお妃様というのも…意外とアリなのかもしれません。
だから、ここでGAME OVERでも…いい、かな。
戦う事を諦めた私は、そう笑って。
まぁ結果…世界を救う為になるのだから、と言い訳をしながらも。
覇王様の腕の中で、めちゃくちゃな彼の設定に乗っかってしまう事を望むと致しましょう。
後篇・終
*****
はい、長々と…お付き合い頂きまして有り難うございました。
申し訳ございません、申し訳ございません、申し訳ございません(エンドレス謝罪)
リクエスト頂きました中二というよりRPG風味が強くなってしまいました…あああごめんなさい井澤が阿呆なばっかりにぃぃぃ!!!(お前が落とし穴に堕ちろ)
覇王様が魔王様ポジションとか、井澤が美味しいだけなんですよね某RPGのボスとかめっちゃ好きだった井澤だけが美味しい展開ですよねごめんなさい…凹。。
もう田中くんがク○パ様に見える…(眼科と脳外科に行けすぐに)
それでも、世界征服困る→なら一緒に居て阻止すれば良いじゃない!みたいな俺様具合を押し通しました事を全力でお詫び申し上げます(深々謝)
他にもお姉さんキャラな主人公ちゃんとかどうなんだ?とか思うところございますのですが、色々懺悔は例の別ページに落とす事と致します。。
こんな仕上がりで大変申し訳ございませんでしたが、最後までお読み頂きまして感謝の限りです!
本当に有り難うございました!!
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