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幻想
呼ばぬなら、呼ばせてくれるが覇王様!(スーダン・田中眼蛇夢)
※お相手は田中くんです。名前は大事なものなんです。の田中くん視点ver.の場面がメインとなっております。こちら大変恐縮な事にリクエストで頂きました。(重ね重ね、京様有難うございます…!)

※題名の酷さに尽きましては全力謝罪申し上げます(陳謝)

※呼ばぬなら、呼ぶまで待とうか覇王様。の続き、のような…感じ、です…。もし宜しければ…先にそちらからお読み頂けましたら幸い、です…。

※安定過ぎる長さです、申し訳ないです。ギャグかな、甘い…の、かな…色々不安です涙。(うわぁ)

※相変わらず能力無し主人公ちゃんです、お好きなご設定にて楽しんで頂けましたらと存じます。




*****


数多の謀略が渦巻いているだろうこの修学旅行も、早13日目を迎えた頃来…。

ついに先刻…役儀(採集)からの帰路にて、俺様はみょうじと名呼びの契約を交わしたのだ。
それは紛れも無く事実であり、慶事だろう。


…あれから、なんとか顔を支配する灼熱は引いたのだが、先の状景を思えば思う程、刻が過ぎれば過ぎる程、
どうにも、まだ名で呼ばれておらん事が、気に掛かってしまうのだ。



―――



その想念を抱えたままに。
晩餐をも終え…レストランにて談笑するみょうじの姿を探る。

すでに8の刻を迎えたが、あやつが俺様の元へ来る気配も無く…。
…いや俺様も、近い場所へ座する事も無かったのだが…。

む…なんだ、その…。
如何せん、複雑な…心境なのだ…。


杯を浪々と満たしていた黒き水面(コーヒー)も、枯れ果てていくように、底が見え始めようとしている。

…今日日は、これまで、か。


そう諦観が過ぎった矢先に、
ガタっと大きな音と共に、みょうじが勢いよく立ち上がる。

流石の俺様も、何事だ?、と見遣れば、
みょうじが視線と交うではないか。


(…こ、れは…ついに、訪れた…のか!?)

しかし、俺様の量見に反するように、例の事件が起こるのだ。



『…あの!っぎゃんだmく…。


……ごめんなさい噛んじゃった。』



……。



緩やかに瞳を閉じ、みょうじの声を反芻するが…
やはり、それは…俺様の名では、ないな…。




ふ…フハ、フ…フハハハハ!!


ほう…そうか、そこまで俺様の名は…呼べんというのか…。
俺様はもう…十二分と言える程、待ってやったというのに、だ…。


かくなる上は…俺様を名で呼ばずにいられんようにする他あるまいなッ!!
…この俺様をここまで待たせた事も、償って貰わねばならんしな。


そう結論付ければ、後の行動等容易く決まる。
ただ機を待つばかりでは…もう事は動かんのだ。



むしろ何故もっと早くにそうしなかったのか。
…いっそ、俺様のものにしてしまいたい程だというのに。


堅く意を決し、再び両の瞳にてみょうじを射貫けば、

「…みょうじ、貴様ァッ…!!!俺様の名は耳にすれば天上の神々も地獄の異形共までもが裸足で逃げ出す田中眼蛇夢だぞっ!!?」

この数日が想いが、声に怒りに似た響きを持たす。

ごめんなさいっ、と反射的な懺悔が木霊するが…その程度では刻む込むにはまだ足りんだろう事は、すでに解り切っておるのだ。

だからこそ、

「…その名を違えるとは…貴様には躾が必要なようだな。」

逃さぬように、しっかりみょうじの瞳を捉え、告げる。
瞳でこのまま捕らえれれば、早い話なのだがな。


こうなっては、俺様が手で以って直々に、躾けるしかあるまい。



…乱迷か、それとも自らへの叱責の為か。
どうやら固まっているらしいみょうじも、その他雑種共にも、もはや構う事も無く。
真直にみょうじの元へと向かい、目前に立つ。

『えっと、その…ごめん、なさいです、本当に、ごめんなさいッ!』

…大仰に頭を下げるみょうじの素直さは認めるところだが、

「フン、貴様が違えたのはこの覇王の名だぞ?
よって貴様に拒否権等ないわッ!フハハハハ!!!」

もはや、謝辞で済む次元は遥かに超えているのだからなッ!!


そう告げれば、観念したかのように、

『…はい…。』

小さいながらも、従順な返答を零すみょうじ。
未だ人間共の声の上がらんレストラン内では、その声も容易に拾えるというもの。

ただそのまま、みょうじに歩み寄れば、

「漸く理解したか、ならばついてくるが良い…!」

彼女を連れ出す事だけに専心する。



もちろん、この後のレストランの喧騒等…俺様の知ったところではないのだ。


―――


おずおずと、引けた足取りながら、沈黙を纏ったままのみょうじが、俺様の後を追う。
どうやら逃げ出すような気配も、無い。

…何事も無く連れ出したは良いが、こうも易々と付いて来るものなのか…。

(…どこまで危ういのだ、こやつは…。)

改めてみょうじの隙の多さに、溜息を堪えるのも限りを感じる。
そう心中にて釘を刺したところで、当人へは届かん話なのだが…。



4,5分程の歩みを経れば、俺様のコテージへと辿り着く。

…元より手荒な真似等する気は無かったが、視線のみで、入れ、と促せば、やや惑う様子は見せたものの、中へと足を進めていくみょうじ。

(…やはり、俺様が信頼に足らん等という訳では…ないようだな。)

その事に安堵する心地はあったが…
名を呼ばん事とは、また別の話だ。



みょうじがコテージへと入りきるのを見届け、俺様も中へと歩み入る。

直ぐ様灯りを点し、無粋な輩共の急襲等に備え、コテージ内の全ての鍵と窓を封じていく。

…フン、余計な邪魔等入られては堪らんからな。


最後の窓を封印し終えたところで、みょうじへと向き直る。

「…みょうじ、そこに座っていろ。」

『はい!?』

…流石に不安の伴ったような声だったが、とりあえず素直に腰掛けるみょうじ。


(…ふむ。
みょうじに名を呼ばす…というよりも、俺様の名を第一に思い起こすようにした方が…確実か。
…ついでに、俺様の存在をもっと意識させられれば、尚、良い…な。)


四天王を城へと帰還させ、目的の物を整える。
大人しく座するみょうじの前に立ち、ただそれを、机上へと置いていく。


さながら俺様への誓約書(紙)に、染記の魔具(ペン)、といったところか。


…名を多々綴れば、否が応でもより俺様を意識する事となるだろう…。
そして…後々、役立つ間柄と成る為の、起点となれば…良いのだが。

そんな思惟まではさて置き、

「書け。」


と、言ったものの…言葉少なだったか、首を傾げたままのみょうじ。


…その意思を読み、言葉を補っていく。

「フン…貴様のような下等生物にも解るよう、噛み砕いて説明してやろう。
この俺様の名を違えるような過ちを二度と起こさぬよう、その紙に俺様の名を百…いや、千は記して貰おうかッッ!!!」

…本来は、百でも、二百でも構わなかったのだが…
千、ならば…早々には終わるまい。

そして明くる日は、安息日だ。
…ならば責任に篤いみょうじの事だ、今宵終えられなければ、続きをやると申し出るだろう。
さすればまた…共に居られるのではないかと、推論される訳であり…。

更に、だ。
これを遂げたならば、褒美だとでも謳って、どこかへ連れて行ってやる事も…まぁ、出来るやも、しれん…しな。

「その身に、心に、俺様の名を刻み付けるが良いわッ!!!!!」

…とりあえず、上のような背景は滲ませず、みょうじへと儀を言い渡す。

が…依然首を傾げたままのみょうじは、まだ動く気配が無い。


「…どうした?みょうじ。もう始めて構わんが?」

拠って、多少怒気を纏い促すが、どうもまだ困惑が残るようだ。

…流石に話を急いた、か?

ならば、と更に言葉で飾る事とする。

「…フッ…なるほどな、みょうじが動揺するのも無理のない事だったか…。俺様とした事が、盲点だったな。

…俺様の名を記すという行為の恐れ多さに萎縮しているようだが、それは気にしなくて良い。今はこの俺様が許可しているのだからな!!!」

フハハハハッ!!

…これで話も、通るだろう。



事実、やや間が空いたものの、

『うん、解った!みょうじおなまえ、頑張ります!』

みょうじの返答は芳しかった。

『…でも、千はちょっと多くない?』

と、俺様の顔を、伺うように見上げるみょうじの様子に…若干心が揺さぶられる上、
まぁ、至極当然な申し立てではあったのだが…

「フン!己が罪の重さを知り、存分に悔いるが良いわ!!」

これもまた俺様が憤怒に拠るところ、としておくのだ…。



程なくして、みょうじが俺様の名を綴り始める。
…自ら強いた場景ながら、どこか瞳が離せんような思いがあり…傍観してしまう。



――


…幾何か実直過ぎる、とも言えるみょうじの姿に、
馨しき液渦(紅茶)でも入れてやろう、
そう思考が追い付いた刻には、夜時間を迎えていたようだ。


それと同時に。

鼓膜を叩く島内放送のその音で、

一気にみょうじが俺様のコテージに居る……

その現状を、急激に、ありと認識する。


(なッ…!!
俺様と、した…事が…!!)


…溜まらずみょうじの様子を探れば、瞳が合った。
とりあえず、馨しき液渦(紅茶)の満ちた杯を渡し、横目でタイミングを…量る。


(…やはり、…これ以上は、な…。)


…そう思慮を巡らせる俺様とは裏腹に。
みょうじは何事もないかのように再び筆を走らせているではないか…!!

(な…、そ…れは…良い、のか!?みょうじッ!!)


何かに急き立てられた為…声を、落とす。

「…戻らんで良いのか?
…夜時間、だぞ。」

奇しくもみょうじを見ずに言えば、

『えっ?…んー、でもまだ途中だし、明日お休みだし、眼蛇夢くんも付き合ってくれてるのに悪いかなぁーって。』

思わぬ言葉が…返って、くる。
諾う言葉もさることながら、永く待ちわびたそれに、無意識にみょうじを見てしまう。

「…ッ!!貴様、俺様の名を…呼んだな!?」

『えっと…呼びました…ね?』

弱々しくも、紛れの無い肯定に、次第に笑いが込み上げていく。

そうか、ついに…呼んだ、のだな…!?


ましてや俺様が為と、引き続き懸命に事へ取り組むというのだ。
…これを歓喜せずに、なんとすれば良いものか。


ならば、彼女が意志が変わる前に。
今、この刻を逃すまいと、どこか惑うようなみょうじへと、押隠していた誓約そのものを…音にする。

「…フン、違えず呼べるならばそれで良い…。
そして喜べッ!貴様のその心意気を買ってやろう、この躾…否!試練を乗り越えたならば、貴様を俺様の特異点にしてやる!!」

が、
またもや多量の疑問符を飛ばすみょうじ。
どうも…伝わっておらんようだな…。

…委細まで語るのは…少々憚られる、のだが…。


致し方なく、みょうじから視線は外しつつ補足してやる。

「むっ…その、なんだ…俺様の……隣に居る事を許可する、というような…そんな、まぁ…光栄な称号、のようなものだ。」

…そう、解し砕いて話せば、
顔を輝かせ、はきとしたみょうじの声が舞う。

『解った!眼蛇夢くんと仲良しになれるって事ですね!!』

…当たらずとも、遠からず…か?

「むっ!?…ま、まぁ、今はそれで良い!!とにかく!だから…その、せいぜい続きを励むが良いッ!!!」

…まぁいずれにせよ、みょうじが隣に居る事に変わりはないのだからな!!


誓約が為、更なる刻儀を助長するように、染記が魔具(ペン)を差し出してやれば、
また俄然と、明快なまでに記し始めていくみょうじ。

…うむ、これで良い…。
ならば俺様も、最後まで見届けてやろうではないか!



―――



そして…また数刻が過ぎ、宵が帳も灼熱が恒光(太陽)に払われつつある4の刻を迎え、突如としてその忌諱は訪れる。

みょうじもよく耐えてはいたが…睡魔は、人間共には最大の脅威に成り得るのだ。



残数も五十を切った…というところで、みょうじの動きが格段に鈍っていく。

目線を落としたまま微動だにせんみょうじの様子に、不穏な気配を感じ…声を送る。

「…みょうじ?」

『……。』

戻る沈黙に、彼女の意識が…全く、感じられん、のだが…。

「…みょうじ?……みょうじ!?」

(クッ!!
ね、寝るな…みょうじッ!
ここで、睡魔に屈されては…俺様にも色々と支障が出るではないかッッ!!!)



いや、一旦、落ち着くのだ。

…躊躇われるが、事態は窮地へと悪転しているからな。
慣れぬ音を耳にすれば、瞳を醒ますやもしれん。
そう言い聞かせ、彼女の名を…口にする。


「…おなまえ。」

『…んっ……が…だむ、く……?』

「ッ!?おなまえ!?」

覚醒した、か…!?


『…んー……すぅ…。』

…どうやら俺様の声に反応したのも無意識下の事のようだ…。
哀しいまでにみょうじの瞳は固く閉ざされたまま、だ…。

いよいよ…手段を選んでもいられん…な。


…やはり…気が咎められる、が…

「…おなまえ、起きろ。」

呼吸に合わせ、小さく上下する、細いみょうじの肩に手を掛け…軽く揺さぶる。




(…柔らかい、な…。)


ッッ!
ッでは、ないッ!!


…と、兎にも角にも、本当に…起きてくれ、みょうじッ!!





…俺様が魔力を以ってしても、心が叫びは届く事も無く…なんとも幸せそうに眠り続けるみょうじ。

(…疲弊するのも、無理はない…か。)

これ以上は眠りを妨げるのも躊躇われた為、無心で…あくまでも無心で、彼女を寝具へと運び、緩徐に寝かせてやる。

…その感触を打ち消すように魔具が筆を取り、更に無心で、残る己が名を綴る。


…その後も…みょうじの近くに居るのはどうにも…心苦しく思われた故、僅かな天蓋へと身を退けたのだ…。


(…う、ぐッ!!
忘れ、ろ…忘れる、のだッ!!!)


俺様が心の葛藤は、結局数刻と続く事になるのだが…
まぁ、口外は出来ん話だ…。



――――



『…えっ!?』

というみょうじのただならん声で、見まいとしていた彼女の方へ、流石に焦点を移す。

「何事だ!?」

とみょうじを見遣れば、俺様を不思議そうに見上げる視線と、素っ頓狂なまでの声が飛ぶ。

『えっ!?どうしてそんなところに居るの!!??』

…そこを…突く、のか…みょうじよ。

「…聞くな、色々…あるのだ。」

思わず顔を背け、苦く吐き出せば…追求は免れたようで、

『あ、私がベッド借りちゃったからかな…?ごめんね、ありがとう!!』

暢気なまでに、笑顔で謝礼を述べるみょうじ。

「フン、気にするな。大した事ではない…。」

…その事実自体よりも、貴様は気にすべき事があるがな…。
という言葉は呑み耐えれば、尤もな疑問を受ける。


『あ、あの…それで…私、あんまり記憶がないんだけど、千個…書き終わった?』

恐る恐る、言い終えると同時にきつく瞳を閉じる。

…そんな彼女の様子が、ひどく、愛らしく思え…口端から笑みが漏れていく。



「…それならば、無事に終えていたな。」

…敢えてそのままとして於いた机上を指せば、途端に華やいでいくみょうじ。


『本当!?』

と喜び勇み、もはや漆黒に近い紙々を手に取っては、瞳で字面を追っていく。



最後の1枚に差し掛かり…
その終盤で、ここでも尤もな疑念が投げ掛けられる。

『あれ?…最後の数十個、なんだか私の字じゃないみたい…。』

「…気のせいだ。
貴様は疲弊して幻覚を見ているに過ぎんッ!!
やはり貴様は愚かだな!!!千も綴れば、貴様の字が崩壊する事も必至…見慣れん程に崩れているだけだ!!!」

ここで、みょうじに悟られるのは得策ではない…。
あやつは、真に、懇意に、よくやったのだ。

…課した俺様が、疾うに千等綴り終えていたと言うのだから、それが偽りなく、真実となるだろう?



みょうじが更なる疑念を述べる前に、証拠を滅するべく、漆黒に染まった紙々と染記が魔具(ペン)を片していく。



改めてみょうじを見据え、
正式に誓約を、声で成す。

「…フン、とりあえず、褒めてやろう。
そして改めて貴様を特異点と認めてやろうではないかッ!!!
喜びに打ち震えるが良い!!フハハハハ!!」

…少々意気を込め過ぎたが、みょうじにも真意は伝わったらしく、

『そっか、嬉しいな!ありがとう!!』

そうまた笑顔で返される。
…その不意打ちの花火に、熱が顔へと昇っていくが…
それを悟られんようにと、視線を外す。

しかし…まだ誓約には、儀式が残っているからな。
再度彼女へと向き直る。

「…貴様が特異点になるには、まだ契約が必要だ。
手を出すが良い。」

俺様が言うがままに、右手を差し出すみょうじ。
…その手を、強く、離すまいと、決するように、握る。
その温かさや感触に…どうにもまた動悸が加速していくが…。

このままで居られれば、な。

と、愚盲なまでの希求も付いて回る。


(…だが、離さん、訳にもいかんから、な…。)

…再度、強く、小さなみょうじの手をしかと握り…徐らに解放してやる。


そして利己的なまでに、自分本位な願望を多分に乗せた言葉を並べ立て…彼女を縛ろうというのだから、俺様も堕ちたものだ。
それでも、述べずには…いられんのだ。

「…よし。これで契約は完了だ。
だが…今しがたの接触から、俺様の毒気が貴様を蝕んでいく。
その毒気を抑える為にも…今後は定期的に俺様の魔力の供給が必要となるからな、極力貴様は俺様の隣を離れるな。
離れる時は俺様が許可した時のみだ…良いな?」


高みから落ちる流水が如く自然にと。
弛まずに紡いだ訳だが、みょうじの反応は…重い。

いや…無理もないのかもしれんのだが、な…。



『あれ、えっと…基本…ずっとって、事ですか、ね?』

遅れて俺様の言葉を解したらしいみょうじが、妙に意を正して問いてくる…。
何やらその情調に釣られ、

「…まあ、そういう事に、なるな…。」

若干のぎこちなさに、視線が逸れていく己をも、見ぬ振りを貫く…。

それでも…顔を目掛け上昇の一途を辿るばかりの熱だけは、誤魔化せんのが難点か…。


…。

…。



…依然として引かん俺様の熱量は気に掛かるところではあるが…未だ続く無言に堪え兼ねて、ちらりとみょうじの気配を伺えば、
…俺様が表熱が移ったかのように、少々頬を染めるみょうじが映る。


四天王達にも様子を探らせるが、どうやら俺様の思い過ごしではないらしい…。

…だが、俺様の隣に居る、その事への許諾と取るに足りてはおらんな…。


どうにも言葉を発するに至らず、みょうじが口を開くのを待つ。



恐らくほんの数秒の事だったのだろう。
しかし厭に…長く、久遠とも錯覚しそうなまでの、白昼に合わぬ沈黙を経て、

『えー…っと…その、できる限り、努めさせて頂きます。』

みょうじの声が、柔らかに鼓膜を撫ぜる。

少し俯きながらも…確かに、彼女は、そう答えたのだ。



…貴様は此から…叶う限りを俺様と居ると、誓うのだな?

ならば…誓約は満たされた。


「…フハッ!元より貴様に拒否権等ありはしないがな!!!
せいぜい俺様の隣に居続けるが良いわッ!!!」

拠って…貴様が望むと、望むまいと、
…片時さえも、離すつもりはない。

そう心中にて、付加をして。


何やらはにかむような表情となるみょうじを見れば、また笑みが生まれ止まんのだ。




そして唐突に。
俺様が瞳を捕らえ微笑んだかと思えば、

『…私、お腹減っちゃったな。』

…なんとも可愛らしく、空腹を訴える…。

そうか…すでに灼光も、頂きに近い刻であったか。


「む、そうだな…ならばレストランに向かうとするか。」

花村ならばもう居るだろう。
そう言葉を落とし、レストランに向かうが為に、装いを整えていく。


遮光幕を次々と開けていけば、どうやら斜光に瞳が眩んだらしい。
ぎゅ、と瞳を瞑っているみょうじが視界に入る…。


(…む…、先宵と…同じ様、だな…。)


俺様の存在等忘れ去り、すやと眠っていた彼女の姿が重なれば…

そっと、口にした、彼女の名も…蘇るのだ。



「……何を呆けている、俺様をあまり待たせるな…おなまえ。」

特異点を明示した事もあったからなのか、
何故か…不自然なまでに自然と、口を突いて、彼女の名が、音と成っていた。

『えっ…今、名前…。』

…おなまえが察し、驚嘆の声を上げる。

その事に、途端に我に返り…
取り繕ろうように、理を詰めに詰めていく。

「…ふ、フン、勘違いをするなよ!?
これは…そう、等価交換だ!!貴様が試練を乗り越え、契約を終えた事への対価なのだ。
貴様が俺様を名前で呼ぶというのならば、俺様もまた貴様を名前で呼ぶ、それが理だからだ、ただそれだけの事!!
決して俺様が呼びたかったからではない、断じてない!!!!」

…俺様とて、マインドが揺らぐ程の事態だったのだ。
どこか、きょととしているのおなまえが状況を把握しよう間も待たず…ただ、ただ捲くし立ててしまった。

…流石、に…苦しかった、だろうか?


これでもかと発熱し続ける顔は隠しつつ、おなまえに瞳を向ければ、ふふ、と笑っている…。


む、それは…何の、笑みなのだ…!?

「…貴様ァっ!!」

どことなく羞恥に襲われた為…それを噴気のせいとするように、敢えて剛毅に声を荒げれば、

『何でもいいよ!私嬉しいし!』

そう、明らかに笑い掛けられる。

…まぁ、なんだ…喜んで、いるというなら…何も言う事は、ないな…。
気を持ち直し、

「…フン、理解したか…ならば良い。
それより、だ。レストランに行くのだろう?」

…おなまえへと、手を差し伸べ、

「…行くぞ、おなまえ。」

宜なわれた名を呼べば…その心地に、どこか安らぎまで憶えていく。

ここまで、おなまえに溺れたものか…。


彼女を見詰めれば、ただ愛おしく。
彼女の手を待つ、この刻すら、愛おしい気がしてしまう。


『…っうん!』


少しばかり上擦るような、跳ね上がるような彼女の声。
ほんの僅かに遅れてやって来る、おなまえの小さな手と俺様の手が重なる感覚、その温もり。

その手を…改めて大事に包み、そのまま故意に…離す事無く、レストランへと足を進めていく。




その道程で、おなまえから刻儀への疑問が呈される。

『…そういえば、なんで書き取りだったの?私、言い間違えだったのに。』

「……フン、言葉よりも、いずれ役に立つだろうからな…。
まぁ邪眼を持たない貴様には解らないだろうがな。」

…其処まで気が掛かりながらも、俺様が深意には微塵も気付いておらん事が、どうにもおなまえらしく、フッ、と笑みが生じる。


んー…。
と軽く唸るおなまえに、伝えるのは何時になる頃か。


…そんな先んじた事を推度していくのも一興だが…

今この刻は、惰性を装い、繋ぎ留めたままのこの右手が、
ほんの幾許でも、永く繋がれればと、愚かなまでに願ってしまう。


そんな己自身に、ほとほと呆れる思いもするが…
彼女の隣で、この刹那、刹那を、心に刻み込んでいこうではないか。


今は唯、それだけで良いのだ。








*****


まずは京様、大変永らくお待たせ致しました上にクオリティが残念過ぎて言葉もございません。
色々と申し訳ございませんでした(深謝)
どうか存分に罵ってください!願。

前作に続き…なんか、こう、田中くんの秘かな葛藤シリーズって感じですね…。
うちの田中くんは照れ屋な上に悩みまくりじゃないか、俺様どこいった(お前のせいだよ)

とりあえず主人公ちゃんにベタ惚れ感は満載に致しましたつもりです…解りにくいかもですが…。
敢えて申し上げるならば、田中くんは一睡もしていないよ!笑顔。(その笑顔マジで止めろ)
あとは…まぁ、うん、色々…ですよ、ね(遠い目)

このような仕上がりで本当に謝罪させて頂く事しか出きず心苦しい限りです…。
最後までお読み頂きました皆々様、本当に有難うございました!

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あきゅろす。
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