幻想
濡れ烏に逆襲を。(スーダン・田中眼蛇夢)
※お相手は田中くんです。彼と彼女と理想論。の続き…のつもりですが…もしか致しますと、パラレル?別EDver.という方が適切かもしれません…。
※田中くん聖誕祭兼救済企画の為、俺様度増量(井澤比)でお送り致します。
別名、俺様不足な井澤救済企画ですね(おい)
※黒髪ロング主人公ですが相変わらず能力設定ございませんので、素敵にカスタマイズして頂けましたら幸いです。
※意外と…長くない、です…多分…こちらもあくまでも井澤比で申し訳ないのですが…汗。
*****
…幾許かの逃走劇を経て。
平静さを取り戻す事に成功すれば、
再度みょうじと二人に戻る。
鬱蒼と、樹々が天を覆い隠す、その地を歩む。
今日日の役儀処は深遠たる樹木が巣窟(森)なのだ。
相も変わらず、みょうじは俺様が歴史譚に耳を傾けている。
時折声を立てて笑い、俺様を見上げては、また微笑う。
…なんとも、心地好い刻…だと、憶えてしまう。
まぁ、それも…役儀が場に着くまでの事ではあるのだが、な。
目的が場所へと届けば、さも自然にみょうじは言う。
『…着いたね。
えっと、じゃあ…私はあっちで採集するから、田中くんは、こっちをお願いね?』
担当地を分ける。
能率を考慮すれば、至極当然の見解だな。
…だが、俺様にとっては好機でも、あるのだ。
限りの迫り続ける中で、この一刻さえも徒費するつもりは無い。
拠って…みょうじの申し出は、受けられんのだ。
「…待て、みょうじ。
貴様に邪悪な気配が迫っている、と作宵も言っただろう…。
先に貴様に結界を施してやりはしたが、距離を置けば、俺様の魔力の影響も弱まる…。」
だから、なんだ…今日は、俺様からあまり…離れるな。
…どうにもまた直視は叶わんかったが、確かに本旨を告げた。
念の為ストールを上げつつみょうじを見れば、ふふと、また微笑っている。
…む、それは…どちらの、笑みだ…?
ほんの瞬刻、その笑顔の真意を量ったが…それすらもどこか見抜かれているのか、
『…うん、そうだったね。
それなら、お言葉に甘えて…しっかり、守ってもらっちゃおうかな。』
よろしくお願いします、
とまた頭を少し垂れ、言い退けるのだ。
「…フン、そうだ、貴様は大人しく俺様と共に居れば良いのだ。では行くぞ、みょうじ。」
『ふふ…はい、仰せのままに。』
…やはり何かを悟られているような気配もするが…。
どちらにせよ、みょうじと役儀が刻も共にするとなった事に変わりは無いからな、良しとしよう。
―――
みょうじと一定の距離を保ちつつ、多少の歓談も交えながら、共に役儀を遂行していく。
…凡そ半日も隣に相すれば、この距離にも慣れ、みょうじが不意に笑い掛けて来ようとも、脈動が暴動の限りを尽くす事までは、なんとか防げるように為るというもの。
(フハッ!まぁ…俺様に掛かれば、この程度は容易いのだがな…。)
『お疲れ様、たくさん採れて良かったね。』
戦果を収集しつつ、みょうじが声を掛けてくる。
「フッ…俺様が居るのだからな、当然だろう。」
俺様も戦果の確認を怠らずに応じれば、
『…覇王様、だもんね?』
と…どこか悪戯っぽい表情で、俺様を伺い見るみょうじ…
これは…俺様も随分と、なめられたものだな。
「…ハッ!正しくその通りだな!!
貴様のような只の人間風情とは、根底から…全てが異なっているのだぞッ!?」
見逃せん、とばかりに声高に訂すれば、
『ふふ…はい、無礼な発言をお赦しください。』
等と、軽口を叩いてくるのだ。
…そんなみょうじは少し小癪にも思われるが、またにこ、と楽し気に笑われては…どうにも憤怒する思いも忽ち霧散していく。
むしろここまで砕けた遣り取りが、どこかまた心地好い気さえしてしまう。
――
『…うん、これで最後かな?じゃあ…帰ろっか、田中くん。』
「ああ、そうだな…。」
戦果を確認し終え、それを運ばんとするみょうじ。
『ん、っと…。』
両の手を使い、やっとという様子で立ち上がる…。
…あの細腕では、無理も無い。
「…貴様には重いだろう、俺様に半数を預けろ。」
『えっ…でも…。』
悪いよ、と頑ななみょうじから、半ば奪い取る形で、戦果を自らの方へと移していく。
『……。ありがとう。』
ごめんね、と。
柔らかに微笑むみょうじに、少々また動悸に乱れは生じるが…
「フン、気にするな…。」
あくまでも平静に、平静に言葉を返すのだ。
――
再度みょうじからせがまれ、帰路を辿る間も、魔獣達の話を綴る。
俺様の話を懸命に聞き入るみょうじは、往路が刻と同様に、どこか楽し気で、俺様としても気分の悪いところではない。
(…まぁ、やはり…並び立てば、あまり表情は読めんのだが、な…。)
一つ。
また話に終わりが訪れ、同時に引連れられる、僅かな沈黙。
次の話を選ぶ間に。
横目で艶やかに揺れる、みょうじの漆黒の髪を、そっと眺める。
(…まるで、水気にしっとり濡れる烏羽か…。
濡れ烏、のようだな。)
彼女を見詰めたその刹那。
それさえも見透かされているかのように、みょうじが俺様の方へと、顔を向ける。
『…田中くんって、本当に優しいんだね。』
視線が合うと同時に、そう声を発し、また微笑う。
突如として放たれる言葉に、なんと返せば良いものか…と思案していれば、みょうじが続けていく。
『さっきも、そうだったし…田中くんのお話も、動物達が大好きなんだなーって解って、本当に…優しい。』
また、微笑い、
『…私は、好きだな。』
こんな事まで言うのでは…もう、どう返せば…良い、のか…。
いや、こやつが言っているのは、あくまでも…俺様の話が、なのだ。
みょうじはこのように…主語が欠落している事が、多分にある。
故に紛らわしいのだ。
それは先までで、十二分に解っているところ。
拠って、
「む…そう、か。」
目線はまた逸らしつつ、平静を再度保つ事に重きを置けば、
『うん!次のお話も楽しみだな。』
事も無げに、そう返ってくるのだ。
(…主語が、抜ける癖は…なんとかならんのか?
みょうじ…。)
――
次の話も幕が切れれば、他愛も無く、みょうじと言葉を交わす流れとなる。
…どうやらみょうじは、
話す時は相手の瞳を見て話す、
典型的にそのタイプのようだ。
何かを声と成す度に俺様を仰ぎ見ている。
…その様子が、そこはかとなく、可愛らしくも…ある。
だが、それが…まずかったのだ。
『…それでね、っきゃ!?』
と、心から驚いたという声を上げるみょうじが、
ぐらと倒れていくような、気配を感じたが…
俺様も片手が戦果で塞がれていた為、咄嗟に支える事は叶わなかった。
そして、ほんの僅かに遅れてやってくるのは、
右半身を中心とした、小さな衝撃と…その、なんだ…形容、し難い…、柔らか、さが、だな…。
途端に全身をまた血脈が巡り、顔が沸騰していくような状態に見舞われつつあったが…
何よりみょうじの身が案じられた為、直に声を掛ける。
「ッ…!大丈夫、か!?みょうじッ!」
そう声を落とし彼女を見遣れば、
俺様の右腕を中心に、しがみ付くような形となっている。
…どうやら、樹木が魔の手(根っこ)にでも躓いたようだな…。
幸い、負傷等はないようだったが…返答が、無い。
「…みょうじ、大丈夫か?」
ほんの少し距離を詰め、再度声を落とせば、
バッと、反射的に顔を上げたみょうじと瞳が合い、彼女がボッと音を立てて、赤面していく。
『…ご、ごめんっ…!』
と、更に反射的に、みょうじが俺様の腕から離れていく。
右腕に残る彼女の熱も、感覚も、薄れ消えてしまうのが…少々、惜しくもあったが…。
だが、何よりも。
離れる前の、その一瞬で捉えた彼女の顔が、
俺様よりも、ずっと、遥かに、まるで真に火が付いたかのように、紅く燃盛っていた事を想う。
…その顔に、今この刻も、俺様を一切見ようとせんその姿に。
頭の芯が冷え渡るような感覚を憶えていく。
つい先刻まで、あんなにも煩かった鼓動もどこへ行ったものか…。
俺様自身、驚く程に、沈着していくのだ。
己の事ではまず取り乱す事の無いみょうじが、ああも動揺している。
その原因が、俺様だとは、な…。
…想い起こされる彼女の顔の愛らしさ。
あの顔を…もっと、見ていたい。
そう想ったが先か、同時だったか。
…本能的なまでのそれに、身体がただ突き動かされていく。
俺様に背を向けて、紅潮したままの頬を隠すように手で覆うみょうじの前に回り込み、
その手を外してやれば、更に紅々とした彼女の困り顔が覗く。
『…っお願、い…見ない、で…。』
お願い、と懇願する彼女が、また、一段と。
「…良い、顔…だな…。」
『……そんな…事っ…。』
困惑し、益々赤みが差していくようなみょうじが、また、格段に。
「俺様が、そうさせたのだと思うと…より、良いな…。」
どうにも…可愛い。
吸い寄せられるように、彼女の艶髪を撫でれば、
『…田、中…くん…?』
一層惑う彼女に、笑い返し、無言で応え…
濡れ烏の頂近くに、静かに唇を落とす。
『…えっ?…た、なか、くん…?』
どうした、の?と。
そう言いながら、抵抗する事にすら気が回らないようなみょうじに、また呵責心が擽られていくように。
艶やかな羽に手を掛け…その厚い羽々に、絶えず隠し秘められている彼女の耳を、外気に曝す。
『…っん…。』
一挙一動、全てに過敏なまでに反応を示す彼女は多少涙ぐみ…紅みはやはり、増すばかりだ。
益々…可愛い。
燃盛る中心で、一等に熱を持つだろう小さな唇を、奪いたい衝動に駆られるが…抑え、込む。
可視下に曝された小さな耳を、輪郭をなぞるように触れ、
改めてみょうじを見遣れば、
『…お、願い…恥ずかしい、から…もう、見ないで…。』
再度の、懇願。
縋るような瞳も…堪らない、な。
本当に…。
「…そんなに恥じるならば…俺様のものになれば良い。」
何時と無く、弱気な彼女を前にして、
「さすれば…俺様にしか、そのような顔を見せずに済むだろう…?」
喩い強引であろうと、この刻しか…無いと思えた。
俺様自身、みょうじのこのような顔を…他の人間共に見せたく等、無いのだ…。
「…だから、俺様のものになれ、おなまえ。」
強く抱き締めて、閉じ込める。
…濡れ烏が飛び去ってしまわないように、強く。
故意に、おなまえの顔は見ないままに、ただ、只管に、抱き締め続ける。
…彼女の答が気に掛かりつつ、やはり少し…聞きたくないようにも、思ってしまいながら。
ならば…この刻を、もうしばらく。
そう無暗に思い遣れば、彼女が薄く…口開く。
『…っ、それ…って、私の事…。』
一旦、途切れ、
『…好き、って…事……?』
消え入りそうに。
「…。」
彼女の熱量から、まだ彼女の顔が、紅々と燃えている事を推察し…無言で、肯定とすれば、
『…それとも、からかってる…だけ…?』
不意に…あんなにも、顔を見るな、と懇願していたおなまえが、俺様を見る。
未だ紅潮しながらも、
…何故、そんな…切なげな表情を、しているのか。
『…っ。』
直様に、おなまえは俯いてしまったが…。
その表情が、離れない。
しばし…俺様も、動揺に似た何かが巡ったが…
あれからも、俺様の腕の中に居る濡れ烏を見、その表情の心意を探れば…意外と、答が近く、腑に落ちていく。
ああ、俺様の…言葉、か。
自らは言わんのというのに…
おなまえは俺様に…主語を、求めているのだな。
紅く、紅く、俺様に抱き留められながら、尚紅く。
そんな彼女がまた、無性に可愛らしく。
ならば…仕方ない、な。
声を掛ける代わりに、おなまえをまた強く抱き締めて、
「…ああ、もちろん…前者だ。
…俺様は貴様に惚れてしまっているのだ、心からな…。
…だから、俺様のものになれ、おなまえ…。」
そう臆せず告げれば、
『…本当に…?』
まだ煌々と紅い顔を気にするように、おなまえが少しばかり顔を上げる。
「…ああ。」
彼女に、頷き、笑ってやる。
それを見れば、顔をしっかりと上げ、
『…それなら、お言葉に甘えて…。
…田中くんのもの、に…なろうかな…。』
おなまえも、微笑った。
まだ十分に赤みの残る顔ではあったが…
どこかいつもの余裕さを醸すようなその表情に、
抑えていた呵責心が、また顔を覗かせるのだ。
「…ならば、契約完了、だな。」
声にすると同時に、彼女の小さな唇を奪う。
『…っ…!?』
鼓膜に波紋する音を立て離れれば、抗議の声が飛ぶ。
『…た、田中くん…!』
もう…びっくり、した…と。
更に顔を赤らめて、すっかり気の緩む彼女に、呵責心は増していくばかりで。
食むように、また唇を寄せる。
『…ん…ぁ…っ…。』
濡れ羽に手を添えて、おなまえを強く引き寄せて。
驚嘆で開いた唇から舌を滑り込ませ、歯列をなぞっていく。
『…んん…ふぁ…っ。』
軽く舌を絡め、水音を立てれば、おなまえの顔にまた、どんどんと、朱が差していく。
(…可愛い、ものだな…。)
『…ふっ……は…んっ…。』
程なくして、おなまえが限界を訴えるように、濡れ羽を振り揺らす。
その場景も明媚で、名残り惜しくはあったが…仕方なく、唇を、離してやる。
『…はぁっ…もうっ…!田中くんっ…!』
そう、真赤なままに怒るおなまえ。
「…フッ、どうした…?俺様のものとなった以上…これ位は当然であろう?隙だらけな貴様が悪いのだ。」
故意に、少々不遜に、応えれば、
益々火照り、大人しくなる。
…どうして、そうも…。
だからこそ、
紅い顔を持て余し、狼狽しては羞恥に囚われたままのおなまえの耳元で、
「…覚悟しておく事だな、おなまえ。」
そう低く、囁いてやるのだ。
…もちろん、後々彼女は抗言を降らせてくる訳だが…
大人しくさせるには、その口元を塞げば良いだけで…
もうすでに容易い事となっている事は、まだ彼女の知るところでは無いのだ。
終
―――
…はい。
これでも、覇王様お誕生日おめでとうございますの気持ちをたっぷりと込めさせて頂きましたつもりですごめんなさい申し訳ないです是非燃やし尽くしてください(土下座)
覇王様が覇王様すればいいじゃない!!
と思って、ちょっこりスイッチ、入れてみました。
ですが、俺様度UPでわっふー☆するのって、井澤だけなんじゃない?意外と俺様ってジャンル人気ないんじゃない…?等等…思うところもございましたりして…重ね重ね、申し訳、ござい…ません…凹。
個人的には、この主人公ちゃん…若干の小悪魔っぷりを発揮しているので、あんまり可愛くないなーって思われてしまっているのではないかと思い、実は異性耐性ゼロで可愛いんだぜ!っていう事が少しでも書けていれば本望です…(キリッ←そこなんかい)
ちょっと強引な田中くんも好きだなーと、ほんの少しでも思って頂けましたら幸いの限りです。
今回も長々とお付き合い頂きまして本当に有難うございました!
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