誰かに聞いた怖い話
・・・三毛猫8
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彼はその猫に見覚えがあった

彼は何とは無しに、その三毛猫を目で追い、その猫が以前…彼の息子が出来る前に、娘が拾って来て親子共々で可愛がっていた仔猫の三毛だと、直ぐに気付いたのだ

最初はみすぼらしく汚れきった小さな身体を震わせ、ミィーミーとか細い頼り無げな声で鳴いていたその三毛猫も、彼等の愛情を一身に受けて見る間に大きく育っていった

ところが、ある日突然姿が見えなくなったのだ

それは丁度、彼に息子が生まれた寒い冬の頃の事だった

それ迄あれ程可愛がっていた娘や男達の関心が、新しく生を受けた赤児に移ったのを敏感に感じ取ったのか、不意に姿を消したのだった

けれども、子育てに追われる誰もが、姿を消したその三毛猫の事を心配する事は無かった

姿を消した猫の気持ちはわからない…構って貰えぬ淋しさなのか…それとも…





その男は、走り去った猫の事など直ぐに忘れて、布団に包まれてすやすやと眠る我が子の顔を見る為に、起こさぬ様にゆっくりと布団に近付いて行ったんだ





『その時には、既に赤児は息をしていなかったそうだよ』

『その当時は今の様に…SIDS…乳幼児突然死症候群なんて知られていなかった』

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あきゅろす。
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