誰かに聞いた怖い話
・・・火の玉12
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その棺桶の故人の葬儀に参列し、尚且つ故人の最後の顔を見ている者にとっては、その故人の異様な様子に驚きを隠せませんでした

確かあの時…故人の最後の顔は、勿論葬儀屋の従業員の手が加えられていたとは言え、此の世の苦労にはとんと縁が無さそうな、穏やかな顔をしていたのです

それはまるで、微笑んでいるかの様に…



それなのに、彼等が今こうして見ているその顔は、それとは全く異なっていたのです



墓場から掘り起こされた棺桶の中の故人の顔は、彼を襲った予想外の恐怖からなのか、苦しみから来るモノなのか醜く歪み、仏様を見慣れている筈の住職ですら経文を唱えるのすら忘れて、その場に立ち尽くしていたのです

ですから、他の立ち会いの村人達が思わず後退りしたのを、誰が咎める事が出来るでしょうか



そうして、その事から考えられる事は、たった一つの事しか有りませんでした



彼は…棺桶の中の故人は…生き返ったのです



いいえ、死んではいなかった

そう考えるのが、妥当かも知れません



真新しい棺桶と共に墓場の土の中に埋葬された故人は、その時にはまだ死んではおらずに、単なる仮死状態だったとしか考えられないのです

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あきゅろす。
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