誰かに聞いた怖い話
・・・廃墟にて12
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そんな思いに捕われたのは、私一人では無かった様です
それは手にしたコーヒー缶を握り潰すかと思われる程、強く握り締める者が、私の他にも何人も見て取れたからでした
『…そろそろ戻ろうか?』
そして例の彼の言葉に反対を唱える者は、此所には一人もいませんでした…皆無だったのです
それは私も同じでした
何故だかは分かりませんが、私の中の何かがそう告げていたのです
早く此所から出ないと、大変な目に遭うぞと…
未だ明るい表に対して建物の内部は既に陰を濃くし始め、私達の下りる階段は足元に良く気を配らないと危ない程、薄暗さを増していました
『ねぇ、待ってよ!置いて行かないでよぉ』
私達は女の子の叫びが頭上から聞こえる程に狼狽し、いつの間にかその薄暗い階段を我先にと駆け下り始めていました
それでも彼女が張り上げた必死な叫び声を聞く余裕は、此の時の私には未だあったのです
『危ないじゃないか!』
急に階段の途中で立ち止まった私に、後ろを駆け下りていた友人がぶつかり、よろける私の事を隣りを駆けていた例の彼が抱き留めて…私は怪我を負う事もなく、その場で遅れる子達を待ったのでした
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