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勇者ものがたり
夕暮れ時の騎士の会話







「せんぱーい、魔物の件含めて大体話は聞けましたし言われた通り、あの二人は家まで送らせました〜。
ま、あの年頃の子をあんまり夜遅くまで拘束するわけにいかないですしね。

あとトウマ君の元パーティメンバーの規約違反もギルドの方で処理させておきましたけど、もうこんな時間ですし、ギルドの方も手続きがあるみたいなんでとりあえず具体的な処理は明日になりそうです。

ああそうそう、野次馬の方々もさすがにもう散ったみたいですよ。

いやー、疲れたなー。

それにしても、取り調べの方もなんとか穏便に事が済んで良かったですね!俺、重い空気って苦手なんですよー。

そもそも先輩たまに素で恐い顔してますからね、あんないたいけな子たちに無駄に警戒心抱かれてたらどうしようかと思いましたけど、特に二人とも気にしてなかったみたいですし、ほんと良かったです。
二人ともいい子そうじゃないですか」

そう、暢気そうな声でレインが言う。

「ああそうだな。だが…」

それに対しクレイグが考え込むように顎に手を当てた

「何か?」

「あのユシアという少年、どうも気にかからないか?

回復の実のことといい、支援・回復魔法使いなら事前に少しは情報に引っかかっていてもいいはずなんだが。
少なくともこの村の者ではないのは分っているが…」


「あー、そういえば不思議な感じの子でしたね。

うーん、ギルドの方にも特に勇者選抜登録どころか、通常のステータス情報も登録されてないみたいですね。

まあステータスの方はトウマ君の方もそうでしたけど。

旅をしていたと言う割には軽装すぎますし、そもそも何であの森にいたんですかねー。普通は迷いの森なんて呼ばれる森、そうそう踏み込まないと思いますけどね。

ああそういえば回復の実なんですけど思っていたより量があるみたいです。すごいですよ。これを自分で採ったって言うんですから普通ならありえませんね。

…まあでも、これに関しては回復に多少余裕が出来てそこは一安心ってとこですけど。


あーそうそう、トウマ君でしたっけ?あの子は、逆にこの村で大人気みたいです。こちらが聞かずとも村人の方から大体話してくれました。

それにしても本当にいいんですか?魔物の件と一緒に呪いってやつの事も上に一応報告しなくて、
魔物を引き寄せる呪いにしては、相当な曰くつきみたいですよ。放置しておくわけにはいかないのでは?」

「それは…分かっている。だが、トウマ・ユリウスの件に関しては明日の討伐次第で判断しても遅くないだろう。」

「そうですか?まあ先輩がそういうなら俺はどうでもいいんですけど。もしかして噂を聞いて同情しちゃいました?」

「お前な…笑顔で言うな。そういう訳ではないが、気にかかることもあるんでな。それだけだ。

ああ、それと話は変わるが明日の魔物の件なんだが、
…あ。……。」

「…?どうしました?」

「…トウマ・ユリウスの話していた魔物なんだが、お前はどう思う?」

「どう思うも何も、通常より大きいモンスターってこととくらいしか分かってませんよね。あとは少なくとも獣型であるということくらいですか」

「そうだな…。」

「何か、あるんですか?」

「いや、おかしな話だが、トウマ・ユリウスの言っていた魔物の外見がどうもな…。

ふと妙な話を思い出したんだが

なんでも未知の魔物は古代種なんじゃないかと学者達が言っているそうだ。」

「ぷっ、古代種wまた新しく魔物に分類を作ったんですかあの人達。
あ、すみません。で、なんでしたっけそれ」

「いや、いい。神話時代にいたとされる魔物なんだが、まあありえないだろう。魔物というのはその時代の魔王固有の形で現れるものだからな…。」

「あー、俺、そういう類の本読まないんで知らないんですよね。神話時代ってことは初代勇者の話でそんなの登場するんですか?」

「少なくとも神話時代の魔物は今の数倍の強さと一部には巨大な姿をしたものもいたようだがまあ所詮物語だからな…。

しかし、お前はいつもよく分からない話を新人どもに教えては怖がらせたりしている割に、こういう話は知らないのか。
初代勇者といえば、有名な話だと思うが。」

「うーん、あれは怖がってるのをおもしろがるのが目的と言うか…、内容自体はほとんど俺の適当な創作なんで物語に詳しいわけではないんですよねー。

まあ、多分、本自体は読んだことはあると思うんですけど、記憶に残してないんだと思いますよ。

俺、基本的におとぎ噺って嫌いなんで」














―――












「うーん。」

オレンジ色に染まる道、目的地に着いた俺は首を傾げてた。

「ユシア?どうしたの?」

「いや、なんというか…本当にいいのか?」

「当然だよ。ユシアには沢山の借りどころか命まで助けられてるだ。こんな事じゃ恩返しにはならないと思うけど、少しでもお礼をさせて欲しいんだ」

夕暮れ時、

騎士に送られて気付いたらトウマの家まで来てしまってなんかお泊りてきな流れになってるんだけど、普通に宿でも良かったんじゃないかと思ってしまう。

まあいいか。


「明日の早朝迎えに来る。それまでに明日の準備を整えておくように。」

それだけ言い、騎士は引き返していく。









トウマの家は小さな家だった。
それでも二人暮らしをするには十分だったのだろう。

庭ともいえなくはない家の周りには白い花が植えられている。



「ただいま」

そう言ってトウマが扉を開け家の中へと入る。

俺もそれについて中に入るが、ふと扉をくぐった瞬間に空気の違いを感じ、辺りを見回した。

この家…魔除けが?



「ただいまおばあちゃん。」

そう言って、トウマが奥の棚の上にある何かに向かって手を合わせる。

「それは…?」

近づいてみれば一枚の写し絵があった。
ところどころ破れて茶色く変色しているが、驚くほど精巧で、まるで場面をそのまま切り取ったような絵だ。
年老いた男女と数人の少年少女、恐らく家族を描いたものだと思うが、真ん中でトウマと少しだけ雰囲気の似た黒髪黒目の少女が微笑んでいる。

「写真ていうんだよ。

これはばあちゃんがずっと大切にしてたものなんだけど、今はもうこれが僕にとってはばあちゃんの形見みたいなものなのかな。

冬の国だとこういう技術があるんだね。
でも、ばあちゃんは冬の国の話だけはしたがらなかったから…。」


「ふーん。」


トウマの話を聞いて、もう一度「しゃしん」を見る。

冬の国の技術ね。俺の時代では考えられないな。




だけど、

どうもひっかかるのは何故だろう






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あきゅろす。
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