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勇者ものがたり
囮といいますが

少し過去の話をする。





いつもいつも思っていたことだけど、勇者って本当にめんどくさい職業だった。






ちょっと寄り道をしてみたら、誘拐されそうになってる女の子に出くわしたり

ちょっと買い物しようとすれば、曰くありげなものを押し付けられ、それを狙う怪しい集団に追い回されたり、

たまたま襲われてる馬車がいたから助けてみたら、どこぞの国の王族が乗っていたこともある。


果ては、蹴った石がたまたま姿を隠していた妖精に当たり
ただの石かと思っていたそれが、希少竜の卵。



何の運命か、

人のいる場所に行くと、必ずなにか問題事が起きていた。

―――『勇者様…?助けに来てくれたんですか!』
―――『勇者様!どうかお願いします!』
―――『ああ良かった、勇者様がいらっしゃればなんとかなる』
―――『勇者様、ありがとうございます!』
―――『このご恩は忘れません、勇者様』
―――『勇者様、ところで』
―――『勇者様、実は』
―――『勇者様』


もはや巻き込まれるのが当たり前になってきて感覚も鈍ってくるというもの。



ああでも、







『――――――!!!!!』


遠くから響く、魔物達の咆哮。


目を凝らさずとも分かる。
およそ数キロ先の場所から徐々に向かって来ているそれは、数万にも及ぶ魔物の軍勢。

その目的は恐らく、俺の後ろにあるこの国の王都。

それと

今まさに一人ぼっちで魔物達と相対しちゃってる、俺の命。





さすがに、死ぬかもなってあの時は思った。
なんで、俺、一人で戦ってるんだろうとも。



囮とかそういうものではなく、ただ彼らは何一つ疑問に思わないのだ。
勇者とはそういうものだと、信じ切ってしまっている。






『愚かだな。
貴様は己で思う以上に人間に甘すぎた。
それ故に、貴様は魔族ではなく、人間に殺される事になるのだろう。』








…?


…誰の言葉だっけ?















「…囮、か。そういう事になるのだろうな。否定はしない。」


!!


「トウマ・ユリウス、君の魔物を呼び寄せる呪いというものが本物であれば、当然君は最も危険な立場に立たされる事になるだろう。

だが、
我々騎士隊が君達を必ず護る。
一匹たりとも魔物を近づけさせはしない。

騎士団の誇りと正義の名にかけて、君たちに傷一つ付けさせはしないと誓おう。

…信じては、もらえないだろうか?」


一瞬の間を置いてクレイグとやらがそう言葉を返した。



『ゆしあ』
『おこる?』
『あかいの』
『てき?』

俺の先程までの不穏な空気を感じ取ったのだろう、精霊が集いそっと尋ねてくる。


「…。」

いや、違うよ。
大丈夫、怒ってはいない。
少なくとも、こいつはトウマをただ利用しようとしているわけではなさそうだし、

嘘も吐いているわけでもなさそうだ。



それならあとは、トウマの意志にまかせるべきだろう。





ただ、


どうも、このまま行くとずるずると妙な事に巻き込まれていく気がするんだよな。
本当は、行動が制限されるようなことになるのは出来れば避けたいところなんだが。


あの状況でトウマ一人で行かせるなど出来る筈もなく





というかだな、そもそもなんでこんな小さな村にまで騎士が来ているんだよ!

俺の時代なんてな、騎士なんぞ王都くらいでしか見かけなかったぞ。

そもそも
城内でさえ
宝物庫の見張りといいつつその横を堂々と俺が特殊なカギ使ってガチャガチャ扉開けていようと、そのまま宝物庫の中に扉全開で入ろうと、宝箱を長い時間かけて思う存分漁ろうと、あげくわんさか金銀財宝手に持ち帰ろうと
あ い つ ら 微 動 だ に し な か っ た ぞ。

いっそ目を開けたまま寝ていたとしか思えない。





はあ。

もしこれが俺自身の話ならとりあえずその話自体ぶち壊してとっくに逃走してるとこなんだが


そうはいかないだろう?

なんせ



「…分かり、ました。僕で良ければ、協力させてください。」

このトウマ、俺の100倍お人好しだと思われる。










「そうか。」

トウマの言葉に、クレイグは安心したように微かに笑った。


「ユシアといったな、君はどうする?

見たところ、君はあまり戦闘をするようにも見えないが…トウマ・ユリウスのパーティメンバーなのだろう?」


さて、なんて言おうか。

正直、この時代で、どういう身の振り方をするか決めかねている。


うーん。なるたけ今後とも荒事とは無縁な平穏生活を送りたいんだよな。できれば一般の村人1とかその2くらいの存在でいたいし


ただ戦闘できないことにするとパーティ申請の件もあるし、トウマ一人だけこいつらと行かせることになりそうだしなー。
魔物ホイホイはいいとしてこいつらにあの怒涛の呪い不幸連鎖をどうにか出来るのか…?今は俺がいるからいいけど

まあとりあえず、なんか適当に魔法出来ますみたいなこと言っとくか、弱体化した今、どれだけ動けるか分からんし、出来るだけ精霊魔法を使いやすい状況にしておきたい。



「そうだな…、旅をしてきたから最低限身を守る程度ならなんとかなると思うよ。それと、補助魔法と…初期レベルの回復魔法なら使えるな。」



初期レベルの回復魔法は、確か冒険に出始めて街からある程度遠くまで行けるようになった程度に覚えるはず。



「回復魔法・・・!?」
「初期レベルといっても回復魔法っ?!」

「隊長!回復魔法と聞こえましたが!」
「回復…だと…。」

クレイグとレイン、その他騎士がざわめく


え?何?


「そうか、ああ、すまない。回復と支援魔法ということは神聖魔法、もしくは水、風あたりか…?

恥ずかしい話、我々第一騎士隊の者は何故か皆が皆、壊す事が得意なやつばかりでな、そういった支援を行えるほど器用な者がいないんだ。

その筆頭がこの馬鹿だ。」

「先輩、俺の事大好きだからって、さりげなく俺を貶すのやめてください☆」

「回復魔法の使い手は本来ならどの地域でも探せば数人はいる筈なんだが、基本的に今の時期は選抜参加者のパーティを優先する。

だが回復アイテムも今や、希少価値の問題で数を揃えるのも難しくてな、

我々としては君がいてくれると非常に助かるんだが。」

「無視!?」

なんだ特に魔法が珍しいわけじゃないようで安心した。

「あー…えっと、俺はまあトウマが行くと言うなら付き合うつもりだけど」

「そうか、有難い。」

「それと、回復の実ならたくさん持ってるけど。売ろうか?」


「…あるのか!!!」


こりゃ思わぬ収入になりそうだなっと。


しかしこの時代、大丈夫か?

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あきゅろす。
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