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勇者ものがたり
■冬の国  ※グロ? モブ視点
※モブ視点 
※人が死ぬ描写があります。



























「ああ、貴女、貴女はとりあえず合格と言う事にしておきましょう。

なので、そこをどいて頂けますか?」


酷く穏やかな声で
それが何でも無い事のようにその男の人は言った。



30代くらいだろうか、
聖職者のような白く美しい礼装でありながら、服の上からでも鍛え抜かれたものと分かるその体躯。
オールバックに整えられた白銀の髪と瞳に、同じく銀製の細い眼鏡を掛けて、その人は、恐ろしく綺麗で優しげな笑みを浮かべていた。


血と肉塊が散らばりいくつもの死体が転がるグロテスクな光景の中で、青い月の光を受けるその姿は、まるでその男の人だけが一つの絵画のように清廉さと厳さを持っていた。






「ど・・どかない!わた、ぜっ たい 」

涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながらも私は嗚咽交じりに答える

座り込んだ下半身は床のぬるりとした液体のせいで赤く赤く濡れてしまっている。その液体が何であるかなんて私には考える余裕もなかった


「ハナぁあぁっハナああ やだぁああ!!たす、たすけてぇハナああ」

私の名を半ば狂ったように叫びながら、必死にきつく私の身体に縋る友人。
それを庇うように、男性から友人を隠すように、私も強く友人を抱きしめ返す。
絶対に、絶対に友人を護らなきゃ、この異常な場でそれだけが私の心を占めていた。


「どうしてもですか?」

そう首を傾げて不思議そうに問う男性に
私は必死に首を横に振り、なお友人を強く強く抱きしめた。




どうして、どうしてこんな

最初は何人もこの場に人がいた。

けれど今はもう私と友人しかいない。



「……そうですか、どうしてもお二人一緒がいいんですね。それは仕方ありませんね」

「!!」

友人から離れまいとしていた私に、
やがて男性の穏やかな、それでいて何かを察したような声が掛けられた。


分かってくれた?

そう、一瞬の期待で私は男性の方をバッと見つめ






瞬間、




――――パァンッ!!

破裂音。

それもとても近くで。




「……え?」


グンッと後ろに向かい腕の中にいた友人の身体が動いた。
訳も分からず慌てて抱きしめていた友人の身体を引っ張る。



頬に、何か生温かいものが当たった。



「…ですが皆さん、勇者は“御一人”だけと仰るものですから。」


何…?


「二人で一緒というあなたの希望は残念ながら叶えることは出来ないのですよ。」


何を言って


「あ…亜紀…?」

震える声で友人の名を呼ぶ。

あれほどきつく私の身体を締めていた友人の腕が
だらりと下に向かい、落ちていくのが分かった。







「それで、どうしましょうか?

友人さんはもういませんね?

あなたは一人でも
勇者になりますか?なりませんか?」






「っあ、あ、

あああああぁああっ・・や、やだ・・やだあああ!!あきいいいい、どうして、どうしてぇ・・・!やだあっ、いやあぁあああああああ゛あ゛あ!!!!!」

































「これ、は………」


それは本来なら召喚の儀が終わる時刻をとうに過ぎていた。










冬の国・現宰相を老年ながら務めるオズワルド・ノルベルは、
常ならば禁忌とされているその召喚部屋へと通じる重い扉を並々ならぬ緊張と共に開き、

そしてその先に広がった余りにも悲惨な光景と、その咽かえる様な死臭に言葉を失った。

「……。」


なんという…事だ…


酷い嘔吐感と嫌悪感を耐えるように、布で口と鼻を塞ぎ慎重に中へと踏み込む







びちゃりと靴が音を鳴らす中、

そこかしこに転がる死体を成るべく意識せぬようにひたすらに足を進めれば

探していた人物はすぐに見つけることが出来た。





石の壁で作られたこの召喚部屋において、
唯一の光の元である窓の傍で、どこか遠くを見つめるように青く光る月を眺めている男。


その男がこちらを振り向き、常に絶やすことのないその笑みを浮かべる

「おや…オズワルドではありませんか?

勇者召喚の様子を見に来たのですね?

御覧の通り、申し訳ありませんが、今回の召喚では勇者選抜は“失敗”してしまったようです。また次回ということで宜しいですかねぇ?」


そうどこか愉しげに、
まるでそれが些細な出来事であるかのように。

まるで

今、この床に広がる光景が何事でも無いように、


ただ悠然と微笑む男に

瞬間的に怒りが湧く

「貴方は…、


貴方という御方は…!!

御自分が何をなされたかお分かりか!?
これは国の未来を左右する召喚の儀なのですぞ!!それを…!一体どこにこの様な惨い真似をする必要があったというのか!?」


「そうですねぇ…。
今回のこれに関しては、私も少し反省しているんですよ?

ふむ、確かこれで4度目の召喚でしたか。

私としてはどれもこれも同じような能力ばかりでさすがに飽き飽きしてきたところでしたが

まさかまとめて複数の人間を召喚をすると縁の深い者同士が召喚されやすくなるとは思いもしませんでした。
これは失敗でしたねぇ。

慣れない事はしない方がいいと言う事でしょうか?


先程の御嬢さんも、少しだけ変わった能力をお持ちだったのに、ご本人が勇者の辞退を希望されたので仕方ありません。

まあ面白いと言っても、能力自体はさほど大したものではなかったのですが。」


この男は召喚の儀を一体何だと思っているのだろうか?

由緒ある我が国最も重要な儀式と言われる召喚を
まるでただの戯れの如く語るその様、
あまりの悔しさに眩暈がする。


「…っ、新たな魔王の誕生の知らせからというもの…既に他国では勇者の選抜が進められているというのに、

貴方はまるでお遊びのように異世界の勇者を召喚しては殺しておられるようだ!!何故です?いったい何を考えておられるのか!?」


「ああ、私としてもこうも次から次へと異世界の勇者様を処分するのはとても心苦しいのですよ?

だってほら。
私、“勇者”が大好きですから」

ぬけぬけと!

まるで答えになっていない。

それが真であるというのなら、何故こうも簡単に命を奪うことなど出来る。


「…オズワルド。

仕方ありませんね、分かりました。
そろそろ私もこの“遊び”には飽きてきましたし、この際、どんな勇者でもいいのでしょう?
資質に関しても譲歩することにしましょう。


ああ、ですが…、こう何度も召喚していてはさすがの私も疲れましたねぇ。

…ああ。

そうです!

そこまで言うなら、貴方達が召喚をすればいいのではありませんか?きっと望む勇者が現れることでしょう。」

「なっ…!!」



まるでとてもいい事を思いついたと言わんばかりに、男が笑う。


だがその様な事、

出来る筈がない。



出来る筈が、ないのだ。








怒りを耐えるようにぎりりと奥歯を強く噛みしめる。



召喚魔法とはすなわち“空間魔法”の一つ、
それはもはや『魔王』の司る闇魔法の領域。

その様なもの、並の魔力で行えるはずもなく
本来なら魔術師が百人がかり、それも下手をしたら術者自身の命を落としかねない大魔法なのだ。



それを一人で行い、挙句は一度に別々の点に存在する複数の人間をこちらの世界へと呼び込む事がどれほどの奇跡であるか

こうして平然と微笑んでいるこの男がどれほど異常であるか


“ヨハネス・フォン・ツヴァイフルンク”

この冬の国最高位の魔術師であり、
そして最高位の聖職者でもあるはずの男。





「……っ。

化け物め…っ」

ぼそりと憎しみを込め小さく呟かれたその言葉を男が聞き取ったかは分からない。


男…ヨハネスはその整った笑みを崩すことなく

「そうですねぇ。
代わりに私は“宝探し”にでも行くのも良いかもしれません。」

と相も変わらず穏やかな、どこかのんびりとした調子でそう言った。


「宝探し……?」


あまりにこの場に不釣り合いなその単語にオズワルドが訝しげに聞き返す


「ええ、そうですね…。
例えば、


未だ見つからない初代勇者の遺体がどこにあるのか。貴方は気になりませんか?」




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あきゅろす。
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